鍼灸師として多職種と連携するということ/穴田 夏希・建部 陽嗣

とにかくひとつでも多くのモデルケースを作らないといけませんから

建部先生
建部先生
ちなみに大学病院でも鍼灸の取り扱いが難しいのは同じで、就職先としても少ないですよ。
東洋医学科があるところ以外は、鍼灸を取り入れている大学病院はほとんどありません。
例外的に東大病院は歴史がありますけど。
鍼灸ができる大学病院には、ほとんど東洋医学科があります。
穴田先生
穴田先生
ただコスト面ではどこも厳しそうですよね。
建部先生
建部先生
そうですね。ほんとコスト面がいつも問題になる。
大学病院や一般病院で、広く鍼灸治療ができるようになる可能性って、正直なところどうですか?
モデルケースは無いと言っていい状態ですか?
さまんさ
さまんさ
建部先生
建部先生
そうですね。モデルケースを作ろうにも、権限がけっきょく医師側にあるので。
どうしても、医師側の知識、理解が必要なんです。
穴田先生
穴田先生
さっき言ったような手段でも、ゼロから鍼灸ができるようになるのは正直難しいです。
ぼくの勤めている会社の系列の病院では脳血管障害担当の先生が漢方や東洋医学が好きで、取り入れるようになったという経緯がありますし。
建部先生
建部先生
けっきょくそこなんだよね。医者が漢方などに興味がない病院のほうが多いんですよ。
9割5分は興味がない。興味がない医者がいるところに切り込むのはハードルが高い。
実は大学病院で、鍼灸師側からプレゼンテーションして、鍼外来が実現したのは、僕くらいかもしれない。
穴田先生
穴田先生
建部さんは、ほんとレアですよ。
建部先生
建部先生
とにかくひとつでも多くのモデルケースを作らないといけませんから。
ただ本当は、職能団体が率先してモデルケースを作っていくべきだと思ってるんです。
いわゆる地方の業団といわれているような?
さまんさ
さまんさ
建部先生
建部先生
そうです。各地の職能団体が研修施設を作って、医師を雇用して鍼灸師の研修をおこなう。
そして、どのようなことができるかをデータ化して、病院にプレゼンテーションし、モデルケースをたくさん作る。
職能団体にはそれくらいのことができる資金や能力はあると思ってるんです。
今までのお話を聞いていると、学生のうちに、病院でどんなことがおこなわれているのかを知ることも、鍼灸師の職域を広げるために非常に大切になると思うのですが、現実的に今できそうなことって、なにがありますか?
さまんさ
さまんさ
建部先生
建部先生
まずは学校がそういった研修の機会を作るべきですね。
学校によっては看護や理学療法士などの他の職種の学科もあるんですから、やろうと思えば可能な学校もあるはずです。
穴田先生
穴田先生
学校から病院の回復期リハビリテーション病棟に鍼灸師を研修に送っているケースも聞きます。
ただ、職域を広げるという意味まで至っていないんです。
建部先生
建部先生
それは研修の目的が「多職種を知る」ことで終わってしまっていて、「病院という環境で鍼灸はなにができるかを考える」までに至っていないからですね。
そこまで提案して、データを蓄積していける形になればいいんですけど。
知って、そこからどうするのかは見据えられていないと。
さまんさ
さまんさ
建部先生
建部先生
過去をさかのぼっても、たくさんの鍼灸師が病院や研究室で、個人としていろんなモデルケースを作っているんですが、その人が引退してしまうとどうしても途切れてしまうんですよね。
その仕組みの担保が、個人になってしまっているということですか?
さまんさ
さまんさ
建部先生
建部先生
そうです。僕も京都府立医科大学の鍼外来を作ったけれど、僕に与えられた権限であって、鍼灸に与えられた権限ではないんでね。
建部先生の鍼外来を誰かが引き継ぐことは…?
さまんさ
さまんさ
建部先生
建部先生
僕は神経難病の外来の1枠を担当させていただいただけで、鍼灸部門を作れたわけではないので。
僕が抜けたら、専門の医師が入るだけです。病院にとってなんら痛手がない。
今も他の医師が入ってきたら、僕が率先して部屋を譲らないといけない環境ですよ。
なんかもったいない気がしますね…。
さまんさ
さまんさ

制度としてあるのだから、それを活用して、継続させるべき

ちなみにキャリア形成において、開業という形もありますが、それについてはどのようにお考えですか?
わたしは卒後すぐに開業したタイプで。
さまんさ
さまんさ
建部先生
建部先生
もちろんいいんですけど…もう少し経験を積んでからでもいいのかなとは思います。
穴田先生
穴田先生
そうですね。やはりどこかに所属する経験はあったほうがいいです。
自分の場合、鍼灸師を目指す前に鍼灸整骨院でアルバイトをしていたことや、資格取得時の年齢が37歳だったこともあって、すぐに開業したんですけど、先生方のお話を聞いていると、今からでも地域のカンファレンスなどに顔を出したいと思いました。
さまんさ
さまんさ
穴田先生
穴田先生
ほんと、その意識、大事だと思いますよ。
どんな鍼灸師でも受け入れてくださる土壌はあるんでしょうか。
さまんさ
さまんさ
穴田先生
穴田先生
病院やクリニックの人たちはみんないい人ですよ。
建部先生
建部先生
そうそう。話を聞いてくれる雰囲気はあります。
ただし、自分が神様だと思っているような鍼灸師には無理ですね。
穴田先生
穴田先生
流行ってる鍼灸院はそういうところだったりね(笑)。
気をつけます(笑)。
あと、開業鍼灸師のなかでは、保険、つまり療養費をもっと使えるように!という方と、療養費は悪だ!という方がいらっしゃるようなイメージがありますが、それについてはいかがですか?
さまんさ
さまんさ
穴田先生
穴田先生
療養費も、患者さん目線で言えば、もちろんもっと活用されるべきですよ。
保険を使える理学療法士の現状はいかがですか?
さまんさ
さまんさ
穴田先生
穴田先生
ぼくらはほんとに厳しい状況ですね。例えば回復期リハビリテーション病棟ではADLがどれくらい上がったかの評価をめちゃくちゃ厳しくチェックされるので。
難しい症状の患者さんでも、そうでない患者さんでも同じように評価を求められます。
リハビリによって、どれくらいの期間で、どれくらいADLをあげて、退院させたか、というカムアウトをしないといけないんですよ。
でもそれって、患者さん目線であれば、当然ですよね。
鍼灸師の療養費論争を見ていると、患者さん目線が抜けて、国から療養費を得ることが目的化されてしまっているかもしれませんね。
さまんさ
さまんさ
建部先生
建部先生
患者さんの健康と生活が療養費を使わなければ維持できないのなら、鍼灸師が医師に提案しなくちゃいけないし、それが鍼灸師にとっての武器にもなるはずです。
分断されている、というお話がありましたが、そうならないようにちゃんと医師に説明をして、患者さんのために療養費を使えるように道筋を作るのも鍼灸師の大切な役割ということですね。
さまんさ
さまんさ
穴田先生
穴田先生
制度としてあるのだから、活用して、継続させるべきなんです。
保険が使えるって、医療として認められているということなので。
それって、ほんとにすごいことなんですよ。
建部先生
建部先生
ただ、あの額が正当か、と言われると疑問だけどね。
ま、がんばってこなかった鍼灸業界の責任だね。

大切なのは「誰のための連携なのか」ということですよね

穴田先生
穴田先生
とにかくぼくはもっと多くの鍼灸師が病院で働く時代が早く来てほしいなって思っています。
開業して成功した方のような給料は望めないかもしれませんが、必要なんじゃないかなって。
どんどん職域が増えていけば嬉しいですね。
建部先生
建部先生
鍼灸師の意識をもっと育てていけば、必ず職域は増えますよね。
穴田先生
穴田先生
さっきの話のように、まずは看護助手として現場に入り、他の医療職の方に「鍼灸だったらどうする?」と頼りにされるように発言をしていくようにすれば、訪問鍼灸という形をとりやすくなりますし、医師の理解があれば、入院患者さんへのリハビリのための鍼灸につなげやすくなります。
つまり「病院所属の鍼灸師」という形で、訪問鍼灸で自らコスト面をカバーするということがもっと進めばいいなと思うんですね。
病院所属の訪問鍼灸師…需要はすごくありそうです。
さまんさ
さまんさ
穴田先生
穴田先生
入院していた患者さんは、ある一定の期間を超えると家に帰らないといけません。
そういった患者さんを、療養費を使って退院後もケアする仕組みは必要です。
入院患者さんに関しては、医師の元での治療になるので、同意書の取得も当然なされますし。
建部先生
建部先生
ちなみにこういうのはどう?「病院提携鍼灸院」という形。
穴田先生
穴田先生
それもスマートですけどね。
建部先生
建部先生
その場合は1人鍼灸院だと厳しいか。
穴田先生
穴田先生
実は以前にぼく、自分の同僚の理学療法士たちにたずねたことがあるんですよ。
「もし自分のおじいちゃんのところに訪問鍼灸師が来るとしたら、どんな鍼灸師がいい?」って。
興味深いですね。
さまんさ
さまんさ
穴田先生
穴田先生
じゃあみんな答えたのが「病院所属の鍼灸師だと安心感がある」ってことだったんです。
ほかの医療者から見たら「◯◯鍼灸院」とか「□□鍼灸整骨院」とか言われても、その良し悪しってわかんないんですよね。
よくわからん人が訪問で来てる、と言われるとやっぱり心配なんです。
でも「●●病院から来ている」場合やと安心なんですよね。
上手いとか治せるとかではなく、安心感が大事なんですね。
やはり肩書きや後ろ盾って重要なのか…。
さまんさ
さまんさ
穴田先生
穴田先生
病院である程度の経験を積んでいるであろう、という予想もできますし、元々入院していた病院からの派遣やと、患者さんと鍼灸師がすでに顔見知りやったりね。
病気や患者さんへの理解が、よりありそうな気はしますね。
さまんさ
さまんさ
建部先生
建部先生
何かあったときに、必ず病院からのバックアップがあるし。
穴田先生
穴田先生
あと、そうなんです。病院と継続的につながっていると、再度入院しないといけないときに入院できる可能性が高いので、家族さんにとっても安心感があるんですよ。
そういう意味で、家に来る訪問鍼灸師が病院に所属しているって、これ以上ありがたい話はないと思うんです。
現実的に可能ですか?
さまんさ
さまんさ
穴田先生
穴田先生
この形なら、今のぼくでも可能ですね。
今は訪問リハで収益を上げていますが、訪問鍼灸でも可能なので。
あとは、自分以外の鍼灸師も働ける環境を作って、継続していけるような形まで作りたいですね。
継続できそうですか?
さまんさ
さまんさ
穴田先生
穴田先生
がんばりたいと思ってますが…。
建部先生
建部先生
こういう形も実際にやってる先生はたくさんいらっしゃるんだけど…、2~3年で廃止になってるところが多いよね…。
人材のマネジメントをするのが難しいということですか?
さまんさ
さまんさ
建部先生
建部先生
難しいんだろうね。そうやってモデルケースを作っても作っても廃止しちゃうのが今までのパターンで。
でも、病院に鍼灸を取り入れさせたい、鍼灸を医療として認めさせたいと願うなら、継続性は必要不可欠です。
立ち上げたとしても、5年は続かないと意味がないです。
穴田先生
穴田先生
だから、個人の働きと並行して、学校や職能団体が動くのって大切なんですよ。
そういう意味では職能団体や学校がモデルケースになると継続性はありそうですが、たとえば学校協会が協力したり、民間の派遣会社が仕組みを作る形でも可能なんでしょうか?
さまんさ
さまんさ
建部先生
建部先生
全然いいと思いますよ。大事なのは責任を誰が取るかなので。
病院に鍼灸師を派遣で送るなんらかの仕組みがあれば、鍼灸師側としても安心感がある気がします。
カンファレンスに自ら参加したり、病院に所属することにに憧れはありますが、どうしても挨拶にいく時点でハードルの高さを感じてしまうので…。
さまんさ
さまんさ
穴田先生
穴田先生
気持ちはわかります(笑)。
建部先生
建部先生
あと、学生や鍼灸師だけでなく、鍼灸学校の先生方も、こういった仕組みを通じて、多職種連携の現場に出る機会を得ていただけるといいのにな、と思います。
穴田先生
穴田先生
間違いないですね。
理学療法士の教員の方で、訪問のバイトをして現場を知ろうとする人もいますよ。
建部先生
建部先生
僕らは社会の中で生きていかないといけないので、鍼灸業界にいる人間すべてが、社会の現実を知る必要があるんですよね。
患者を診る診ると言ったところで、患者を診るためには社会を診なきゃいけないし、その中での常識を持つということが必要なんです。
穴田先生
穴田先生
あと、「病院の中で鍼灸を!」と声高におっしゃる方々の中には、病鍼連携、多職種連携が目的化しているのかな、という印象はあります。
先ほどの療養費と同じですね。
さまんさ
さまんさ
穴田先生
穴田先生
大切なのは「誰のための連携なのか」ということですよね。
あくまで患者さんやクライアントのためと考えると、チームや社会で患者さんを診るようにしたほうが良いに決まってますし、必要なことだと思うんです。
みんなで診たほうが結果が出やすいし、やりがいもある。
ひとりでできることなんて、限られてるんですよ。
「患者さんのため」。そういう視点を忘れてほしくないですね。

【記事担当】
取材・文・編集・撮影=さまんさ

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