鍼灸師として多職種と連携するということ/穴田 夏希・建部 陽嗣

鍼灸師が信用されない理由は「鍼灸師が何をやっているかわからない」からです

わたしは夫が理学療法士で、ずっと疑問に思っていることがあって。
というのも、家にある夫の教科書と、自分の教科書を並べてみると、大差ないんですよね。
もちろんリハビリなど勉強する内容の深度には違いがあるかもしれないけれど、範囲はほぼ一緒だと感じるんです。
だけど、わたしたち鍼灸師はそういった西洋医学的な知識プラス、東洋医学的な考え方を持ってしまったがために、西洋医学から排除されてしまっているような…。
さまんさ
さまんさ
建部先生
建部先生
あぁ、あるねぇ。
西洋医学的な知識に加えて東洋医学的な知識も持っている、広範囲な知識の持ち主として見ていただけない現状ってどういう理由なんですかね?
さまんさ
さまんさ
建部先生
建部先生
鍼灸師が信用されない理由は「鍼灸師が何をやっているかわからない」からです。
穴田先生
穴田先生
たしかに、他の職種から見るとわかりにくいですね。
建部先生
建部先生
あと、イメージがね…。
ちなみにイメージというのは「怪しい」とかですか?
さまんさ
さまんさ
建部先生
建部先生
怪しいですよ(笑)。
僕、医学部生に講義してるんですけど、授業の最初で100人の学生に鍼灸のイメージについてアンケートを取ると、半分は「怪しい」って回答します。
講義を重ねていくことでイメージは払拭しているんですが、最後まで1割は怪しいと思っているようです。
どれだけエビデンスを提示しても同じなので、一部の日本人にはそういった拒否反応があるんですよね。
穴田先生
穴田先生
作り上げてきたのは、これまでの歴史なんですけどね。
建部先生
建部先生
そうそう。明治政府やGHQから始まったイメージなので。
あと、SNSやインターネットであがっているようなイメージが鍼灸業界のイメージになっていて、それを覆すことは難しいんですよ。
魔法やおまじないみたいに思われている印象はありますね。
さまんさ
さまんさ
建部先生
建部先生
僕だって、未だに鍼灸師というだけで病院内でいじめられますよ。
大半の人は実績を認めてくれるけど、それでも一部の人は鍼灸師ってだけで認めてくれないんで。
ただし、努力によって払拭することは可能と思っています。
努力ですか。
さまんさ
さまんさ
建部先生
建部先生
努力という意味で、エビデンスを積み重ねて効果があることを示すのは大切です。
あと、病院で僕たち鍼灸師のやっていることの責任は、最終的には医師にもかぶってくる。
だから10例の成功例があったとしても、1例でも失敗があれば、すべてがなしになってしまうので、最後までやりきるという努力も必要で。
医師が責任を取る環境であるぶん、鍼灸師としての責任感も大切になってくるということですね。
さまんさ
さまんさ

世の中の持つ鍼灸師というイメージに応えるのも、プロフェッショナルとして大切なこと

ちなみに鍼灸の特徴として「未病にも対応できます」というのがありますが、それは病院では意味を持ちませんか?
さまんさ
さまんさ
建部先生
建部先生
そもそも病院に来る患者さんで、未病の人がほとんどいないんですよ。
けっきょく、日本に予防医学がある、という話は嘘だと思っています。
唯一ワクチンくらいかなと。
うーん。
さまんさ
さまんさ
建部先生
建部先生
これは国民皆保険制度の弊害というか、予防しなくてはいけないという意識がない。
日本では保険が適応されるのは、すでに病気になったものだけなんで、広がりようがないんですよ。
もちろん人によっては予防医学を取り入れている人もいますし、何かの病気になってさらに違う病気にならないように予防する、という予防医学ならありえますけど。
穴田先生
穴田先生
病院の医療に、鍼灸特有の概念がフィットしないんですよね。
建部先生
建部先生
西洋医学的な医療をしたい鍼灸師は東洋医学的な鍼灸を求めなくなるし、東洋医学的な鍼灸にこだわる鍼灸師は現代医療の枠組みから外される、つまり東洋医学的にこだわりすぎる鍼灸師は…
健康産業のひとつのような?
さまんさ
さまんさ
建部先生
建部先生
そうです。僕らのいる病院という世界とは違う世界になっちゃうんですよ。
穴田先生
穴田先生
鍼灸のポジションって難しいんですよね。
目的によって変わるんでしょうが…。
さまんさ
さまんさ
建部先生
建部先生
伊藤 和憲(いとう かずのり)先生のように養生に向かう人もいらっしゃるけど、それも鍼灸のひとつの問題でもあるな、とは思っています。※インタビュー参照
もちろん美容も養生も鍼灸のひとつのあり方ですよ。
だけど、それにこだわると鍼灸の存在感が薄くなってしまうんですよ。
存在感ですか。
さまんさ
さまんさ
建部先生
建部先生
美容や健康維持のための手段は、ほかにもあるじゃないですか。
さまんささんもピラティスを教えてるでしょ?
そうですね。わたしはその人に合わせた健康維持の方法があると思うので、どちらからもアプローチできるようにしています。
たしかに美容や健康維持という点では、ピラティスやヨガなどの運動、エステやアロマでも、目指す方向は同じだと思います。
さまんさ
さまんさ
建部先生
建部先生
でしょ? 大切なのは「鍼灸の独自性は何か?」と意識することで。
鍼灸を疾患を治すための医療だと位置づけた場合、エビデンスを積み重ねて効果があると世界的に認められれば、確固たる手段のひとつになり得るわけです。
やはりその積み重ねによって、鍼灸の価値を高めることが可能になるとぼくは考えているんですよね。
他にエビデンス以外でアピールできる鍼灸の独自性って何かありますか?
さまんさ
さまんさ
建部先生
建部先生
やはり鍼灸師は鍼を刺さなきゃダメですよ。
てい鍼もひとつの道具としてはいいですが、でも、世の中の人が持つ「鍼灸」というイメージに応えるのも、プロフェッショナルとして大切なことなので。
患者さんの期待しているものをちゃんと返さないといけないんです。
いわゆる「鍼」や「お灸」のイメージを持ってこられるわけですもんね。
さまんさ
さまんさ
建部先生
建部先生
患者さんは鍼灸治療ってどんなことをされるのかよくわからないまま来られるんです。
でも、僕らを信頼して身体を預けてくださる。
そういう関係のなかで、まったくイメージとは違うものを提供する、というのは違う気がするんですよ。
刺されなかったら、ちょっと肩透かしをくらったような感じになるかもしれません。
さまんさ
さまんさ
建部先生
建部先生
もちろん、「うちはこういうコンセプトです」「こういう方法でうちはやってます」と説明をして、同意を得た上なら問題ないんですけど。
僕らはすごく特権を与えられているんだから、鍼灸師としてプロフェッショナルになっていただきたいんですよ。
よく「鍼灸師はジェネラリストであれ」と言われますが、医療の中では鍼灸師としてのプロフェッショナルさが必要なんですね。
さまんさ
さまんさ
穴田先生
穴田先生
たとえば地域包括ケアシステムのなかで、訪問鍼灸をおこなうと、いろんな愁訴があります。
ちょっと痛い、ちょっと具合が悪い、気力がわかない。
そういった多様な愁訴を全体的に診る、という仕組みが今のところ西洋の医療にはないんですよ。
食欲がなければ点滴を打つ、など個別の対応はあるんですけど。
鍼灸はそういった症状を全体的に診るのが得意ですよね。
さまんさ
さまんさ
穴田先生
穴田先生
そうです。だから、全体的に診られる鍼灸ってすごく需要はあるはずなんです。
そして、そういう意味ではジェネラリストであることが理想的やと思います。
とはいえ、別に他の医療者と同じようなことができる必要はなくて、鍼灸師という仕事の範疇の中で、プロフェッショナルとして全体的に診れる人にならないといけないんですよね。
医師や理学療法士、看護師の真似をする必要はないと。
さまんさ
さまんさ
穴田先生
穴田先生
鍼灸師は近年機能訓練指導員の業務もできるようになったので、この分野に進出する機会を得られるようになったんですが、それゆえに、そういった方向に走ってしまう人はいるかもしれません。
建部先生
建部先生
僕としては、少しハードルを上げるならば、カンファレンスや多職種連携の場で自己紹介するときに「この症状が得意です」「ここが強いです」と自ら言える切り札を持っている、という意味でのプロフェッショナルさも必要かもしれません。
「なんでも診れる」は正直「なんにも診れない」という印象を与えてしまうので。
ここぞというときに専門性を発揮できるスペシャリストな部分もほしいですね。

カンファレンスは大切ですね。

建部先生
建部先生
やっぱり多職種の人たちが集まる場所に顔を出す、ということが大事で。
穴田先生
穴田先生
カンファレンスは大切ですね。
ちなみにカンファレンスって誰でも参加できるんですか?
さまんさ
さまんさ
建部先生
建部先生
できますよ。たとえば地域包括ケアセンターの会議に顔を出すとか。
地域の個人院で在宅医療をされている先生であれば、朝にカンファレンスをしているので参加させていただくとか。
穴田先生
穴田先生
在宅医療の先生のカンファレンスだと、比較的容易に受け入れてくれますね。
建部先生
建部先生
個人院で在宅医療が順調におこなわれている場合、本当に多職種のスタッフがいます。
もし自身の鍼灸院とその個人院が共通で患者さんを診ている場合であれば、ぜひ挨拶に行って、カンファレンスに参加させていただけないか、相談するといいです。
それならわたしでもできそうです…。
さまんさ
さまんさ
建部先生
建部先生
僕が在宅医療の治療をしていた頃、挨拶に行ったら「鍼灸師さんってカンファレンスに来ないんだよね」とおっしゃっていて。
彼らは業務の邪魔にならなければ、受け入れてくれるんですよ。
今はオンラインでのミーティングも増えてますし。
他の医療者の方々とつながるってことが重要なんですね。
さまんさ
さまんさ
穴田先生
穴田先生
ほんと、重要ですよ。
他の職種の人たちが、患者さんに対してどんな風に見ているのかを知るのって、絶対無駄にならないですから。
それは鍼灸の専門分野を侵すものではないし、逆に新たな気付きを得られます。
たとえば看護師さんの「こんな風にできたらいいのにな」という意見に対して、「鍼灸やったらできるやん!」というような?
さまんさ
さまんさ
穴田先生
穴田先生
そうですそうです。
カンファレンスで同じ方向を見て、役割をいい意味で分担していくきっかけになるんですよ。
良いことしかないですね。
さまんさ
さまんさ
穴田先生
穴田先生
まぁ、実際はいろんなことがありますよ(笑)。
建部先生
建部先生
ありますあります(笑)。
穴田先生
穴田先生
それでも、達成感がありますし、すごく楽しいんです。
他の職種の人たちと目的を共有してね、この目的を達成するために、鍼灸治療があるんやって思えるのって、すごく良くて。
そういった鍼灸師が増えてくると、鍼灸の価値がますます増えるんじゃないかなって。

多職種連携、病鍼連携って言うのであれば、1度病院で働く以外、方法はないと思います

現状、学校が学生に就職案内できる先が、鍼灸整骨院だけになっているのかな?という印象を受けます。
そもそも就職先にクリニックや病院という選択肢がないという状況について、おふたりの立場からはどのように見えますか?
さまんさ
さまんさ
穴田先生
穴田先生
一部のクリニックでは、リハビリの助手のような形で消炎鎮痛に携わる役目として鍼灸師が勤務している場合はあります。ぼくも以前そのような形で働いていた時期がありました。
大学病院でも建部先生のように勤務されているパターンもあるので、徐々に増えているのかな、とは思います。
ただ、一般病院がほとんど無いんですよねぇ。
以前、矢野 忠(やの ただし)先生の報告書で、一般病院で鍼灸を取り入れているのは4%というものがありました。
建部先生
建部先生
けっきょく一般病院には必要ないんじゃないのかな(笑)。
穴田先生
穴田先生
まぁ、それもありますよね(笑)。
建部先生
建部先生
一般病院ですごく難しいのは、採算が合わないという点です。
それは人件費ですか?
さまんさ
さまんさ
建部先生
建部先生
人件費もありますし、平米数で売上を考えたときに、鍼灸が他の業種よりも売上的に勝てるかというところが重要視されます。
現状は点数は出てるんですか?
さまんさ
さまんさ
建部先生
建部先生
出ないです。点数は「消炎鎮痛」という名目のみ付けられるかなぁ…。
ただし、外来で鍼灸をやりたければ、鍼灸専門の場所を作らないといけないんですよ。他の職種の邪魔になっちゃうんで。
それはどういう意味ですか?
さまんさ
さまんさ
建部先生
建部先生
みんなの共有のスペースで鍼をしてしまうと、他の職種の人が使いたいときに、彼らのストレスになってしまう。
なので、鍼灸を取り入れられているような病院は、しっかりと鍼灸専門の部屋を確保しています。
点数はわずかですから、実費をいただけるような仕組みづくりが必要ですし、その必要性を病院に訴えるために、鍼灸師からのプレゼンテーションをしなくてはいけません。
うーん…ハードルが高そうですね。
さまんさ
さまんさ
穴田先生
穴田先生
ちなみに入院の場合は場所のコストはかからないんですが、点数が取れないので人件費が持ち出しになります。
外来も入院も採算が合わないのが実状なので、他の病院も苦心してますね。
建部先生
建部先生
外来でも実費という形でおこなうと、混合診療だったり法律的に問題があるので、材料費でいただくという方法を取ることもあります。
それは食事代やおむつ代といった、材料費にサービスを加えたものに準じた形で請求するような?
さまんさ
さまんさ
建部先生
建部先生
そのとおりです。
穴田先生
穴田先生
ちなみにぼくが働いている病院の本院には「回復期リハビリテーション病棟」があるんですが、そこでの鍼灸治療はノーコスト、つまりサービスでやっています。
じゃあ人件費は…。
さまんさ
さまんさ
穴田先生
穴田先生
他のところから持ってきているんでしょうね。
ぼくの知っているモデルケースをひとつ言うとすると、鍼灸師としてではなく、別の職種で就職する、つまり看護助手のような形で就職する方法があります。
給料は安くなりますが、看護助手には資格がいりません。
病院に所属して、「この症例の場合、鍼灸でできることは何か?」を考える思考を磨く機会を増やしていくんです。
建部先生
建部先生
そうやってまず現場に飛び込むのが大切だよね。
穴田先生
穴田先生
ぼくはたまたま理学療法士という立場で現場にいますが、多職種の垣根って意外に低いんですよ。
コメディカルだけじゃなく、医師でも、毎日話をして、コミュニケーションを取っている間に、ぼくらの話を聞いてくれるようになります。
チームとしてやっていくうちに「鍼灸だったらこんなことができるかもなぁ」という提案をしたり、「鍼灸だったらどう?」と質問される環境を作っていけます。
自らコミュニケーションを取る機会を得るんですね。
さまんさ
さまんさ
穴田先生
穴田先生
とにかく卒業したあとの就職先が鍼灸整骨院しかない、という現状がアカンとぼくは思うんで。
多職種連携、病鍼連携って言うのであれば、1度病院で働く以外、方法はないと思います。
高卒で専門学校に進んだら、ほとんど社会経験もないままですし…。
たしかにそうです。
さまんさ
さまんさ
穴田先生
穴田先生
だから、社会経験を病院の中で積ませていただく意味でも、そういった手段もいいと思うんですよ。

NEXT:とにかくひとつでも多くのモデルケースを作らないといけませんから

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