2023年の診療ガイドラインの改定で、鍼灸業界でも話題になった顔面神経麻痺。後遺症に苦しむ患者さんたちは、鍼治療に希望を見出し、適切な鍼灸が受けられる場所はどこかと、日々探していることでしょう。
インターネットを見てみると、ホームページなどで「顔面神経麻痺は治る」と打ち出す鍼灸院は少なくありません。
そんな中、顔面神経麻痺を専門として開業する遠藤 伸代先生は、「顔面神経麻痺は治る」とあえて謳っていないと語ります。それは、正しい情報を提供したいから…。
遠藤 伸代(えんどう のぶよ)先生
略歴
千葉県市川市出身
大妻女子大学短期大学部卒業
一般企業に就職
出産のため退職
国際鍼灸専門学校(本科)に入学
訪問マッサージ会社に就職
独立し、訪問施術を継続
東京大学医学部附属病院 リハビリテーション部 臨床研修生(3年間)
鍼灸サロン ハリシアを開業
千葉県市川市出身
大妻女子大学短期大学部卒業
一般企業に就職
出産のため退職
国際鍼灸専門学校(本科)に入学
訪問マッサージ会社に就職
独立し、訪問施術を継続
東京大学医学部附属病院 リハビリテーション部 臨床研修生(3年間)
鍼灸サロン ハリシアを開業
34歳で鍼灸専門学校へ進学。学校生活と家庭を両立
鍼灸との出会いから聞かせてください。
タキザワ
遠藤先生
もともとバスケットボールをやっていて、割と怪我とかも多かったので鍼灸にお世話になっていました。今度はプレイヤーを支える側として、スポーツに関われたらいいなという思いで、鍼灸専門学校について調べていたんです。
遠藤先生は、高校や大学を卒業してすぐ専門学校に入ったわけではないんですよね。どのようなタイミングで専門学校に進まれたのか気になります。
タキザワ
遠藤先生
高校卒業後は鍼灸とは全然関係のない短大に進んで、その後OLを14年間やりました。その間に結婚して出産して、子どもが少し大きくなったこともあって34歳で専門学校へ行くことにしたんです。
何かきっかけがあったんですか。
タキザワ
遠藤先生
ちょっと個人的な話になるんですが、母がずっと闘病していたんです。だから、子どもも親もみなくてはいけない状況で、自分のやりたいことに挑戦するのは無理だと諦めていた部分がありました。でも母が亡くなり子供が大きくなって、今ならできるから挑戦しようと思って専門学校に飛び込んだんです。
専門学校に入学してからの、学生生活と家庭の両立はいかがでしたか。
タキザワ
遠藤先生
学校は勉強がやっぱり大変でした。簡単に留年しちゃう感じだったので…。試験の期間は連日徹夜して、勉強はできることを全部やってみたいな。入学したときは子どもがちょうど3歳で、世話をしないといけない時期だったので家事も走りながらやって。でもまぁ楽しかったです。
家事・育児と学業を両立させたんですね。その中で、特に大変だったことはありますか。
タキザワ
遠藤先生
在学中に接骨院でアルバイトをしたことがあるんです。でも保育園に子供を迎えに行くとなると、夕方にどうしても抜けないといけなくて…。患者さんが入るメインの時間にいれないっていう理由で、そこの接骨院はクビになりました。
なんとか融通できないものか……と思ってしまいました。
タキザワ
遠藤先生
なかなか難しかったですね。その時に、夕方に帰れる仕事じゃないとダメだなって判断して、卒業後は訪問マッサージの仕事に就きました。本当は鍼を打ちたかったんですけど、いわゆる治療院で働くとなると家庭と両立するのはちょっと難しいかなと思ったんです。
東大の研修で「道標」を手に入れる
訪問マッサージの仕事を始めてからは、どんなキャリアを積まれたんですか。
タキザワ
遠藤先生
2年勤務してから、独立して訪問マッサージをしていました。でも、本当は鍼灸をやりたいと思っていたんでしょうね。ある時、粕谷大智先生のセミナーに参加したらすごくおもしろくて、より鍼がやりたくなってしまったんです。粕谷先生は母校の先生でもあったので、挨拶したら「東大病院の臨床研修生制度に応募してみたら?」ってアドバイスしてくださって…。卒業して4年後ぐらいになってしまったんですけど、そこから選考を受ける準備をしました。
かなり人気のある研修だと聞きます。たしか選考試験みたいなものがあるんですよね。
タキザワ
遠藤先生
東大病院の研修生制度は、だいたい冬ぐらいに書類選考があって、履歴書と志望動機書を送るんです。二次選考は東大病院であって、小論文と筆記テスト、それから面接もあります。私の時は最終的に4人選ばれました。
狭き門ですね。研修はどんな感じで進むんですか。
タキザワ
遠藤先生
私は3年間行きました。1年目は先生の治療を見せてもらったり、狙ったポイントに正確に鍼をする練習をしたり、というのをやっていました。2年目を希望すると、今度は常勤職員の指導のもと研修生が患者さんを受け持って、朝から割り振られた患者さんを診ていくようになります。
充実してそうです。研修を実際に受けてみていかがでしたか。
タキザワ
遠藤先生
ちゃんと患者さんを治療できるようになる「道標」みたいなものを学べたと思っています。もしここで研修を受けていなかったら、自分はどうやって治療をしていたのかなっていうくらい。ここで臨床するための道標を手に入れられたから、ちゃんと前に進めたんだと思っています。
顔面神経麻痺を打ち出して、研修2年目に開業
開業したのは、何かきっかけがあったんですか。
ゆうすけ
遠藤先生
私は研修2年目で開業したんです。そのタイミングで開業を決意するとは自分でも想像していませんでしたが、開業できるぞって思えるぐらいになれたんです。そういう意味では、研修なんだけど深いっていうか…。決意してからは、実践的なこともいっぱい教えてもらいました。
開業したくなる研修というのは、すごく興味深いです。ところで、遠藤先生は顔面神経麻痺が専門なんですよね。それも研修の影響ですか。
ゆうすけ
遠藤先生
そうですね。もともと東大病院には脊柱管狭窄症の患者さんが割と多かったんですけど、ちょうど私がいる頃から顔面神経麻痺の患者さんがすごく増えました。東大病院の研修には年度末に発表会のようなものがあって、1年間調べてきたことを発表する機会が研修生全員に課せられているんです。私は顔面神経麻痺の患者さんを結構担当させてもらっていたので、最終的に顔面神経麻痺について発表しました。
それで今の治療院でも、顔面神経麻痺の鍼灸治療を打ちだすようになったんですか。
ゆうすけ
遠藤先生
東大には重症の患者さんもたくさん来ていて、地域でも診られる鍼灸院があったらいいなと思っていました。それで、開業したら顔面神経麻痺を打ちだそうと決めていたんです。
実は、遠藤先生の顔面神経麻痺についての情報発信を見ていました。個人による医療情報の発信は玉石混交ある中で、とても信頼性の高い内容だなと思っていたんです。2023年の顔面神経麻痺診療ガイドラインでの前進を、ハリトヒト。としてはかなり注目してきたんですが、町の鍼灸院が取り残されないかっていうのを結構気にしていて…。
ゆうすけ
遠藤先生
日本顔面神経学会に出させてもらったときに、ガイドラインに基づく鍼灸治療をしてくれる鍼灸師がどこにいるかわからないという意見が医師から出ていた記憶があって…。おそらく、そういう意味だと全然確立されていない。まだまだなんじゃないかなっていう印象はあります。
先生は日本顔面神経学会のリハビリテーション技術講習会にも合格されていますよね。学会認定の指導士も目指しているんですか?
ゆうすけ
遠藤先生
そうですね。日本顔面神経学会認定の顔面神経麻痺リハビリテーション指導士は鍼灸師もなれるんですけど、審査があって、まずリハビリテーション技術講習会のテストに合格することが条件なんです。あとは学会に正会員として3年間所属していないといけないこと、それから症例報告書を提出し承認してもらわなければなりません。入会して正会員として3年は経ったので、今年は指導士制度に申請してみようと思っているんです。そうすると東京都のリハビリテーション指導士のところに名前と鍼灸院が掲載されるので。
全国的にも指導士はまだ全然いないですよね。ここが充実してくると、顔面神経麻痺の患者さんにどう鍼灸治療が役立つのか、もっと一般化するんじゃないかと期待しています。
ゆうすけ
遠藤先生
現状だと東京でも1人しかいないので、今年頑張ろうと思っていることの1つなんです。
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