患者さんに鍼灸治療を受けてもらうために
泌尿器科の鍼灸治療で代表的なポイントとして、仙骨部とか陰部神経、それから三陰交や太谿などがあると思います。いろんな症状を抱えている患者さんになってくると、全身的な鍼灸治療も一緒にされたりするんですか。
ツルタ
伊藤先生
初期の治療としては、仙骨部や陰部神経の刺激をおこなうことが多いです。でも、それだけでは厳しい患者さんっていうのは一定数おられるので、膀胱の問題であっても東洋医学の全体観というか、そういう視点を持つことは大事だなと感じています。
それは先生の臨床経験に基づく工夫ということになるんですか。
ツルタ
伊藤先生
そうですね。実はおしっこの問題を抱える患者さんには、慢性疼痛をはじめとするほかの併存疾患が多いことも近年明らかになっているんです。腰痛、頭痛、便秘など慢性症状のケアは、膀胱症状の管理には重要だと強く感じています。
ところで、高い専門性がある先生の鍼灸院ですが、施術料はかなり良心的ですよね。
ツルタ
伊藤先生
平均単価が4,000円ちょっとぐらいです。やはり初期治療として週1回での継続の必要性を考えると、これ以上高いと通院できる患者さんが限られてきちゃうっていうのがあって……。
医療を提供する立場として、患者さんの負担をどう考えるのか。医鍼連携を進める上で、大きなテーマになりそうです。
ツルタ
一生かけて取り組みたい
今後の目標は、どのようなことを考えていますか。
ツルタ
伊藤先生
今後は、当院でおこなっているような泌尿器科との連携のモデルが、各地域で広がってほしいです。うちに来てくれる患者さんも、1割ぐらいが関西圏の外から来られているんですよ。新幹線に乗ってきたりっていう状況もあって、申し訳ないなと。
全国におられる泌尿器科でお悩みの患者さんのためにも、泌尿器科の専門性が高い院が増えてほしいってことですね。
ツルタ
伊藤先生
ある程度専門性を持ちつつ、医療機関との連携を深めていけば、おのずと鍼灸需要の掘り起こしにもつながっていくと思います。鍼灸側から専門性を提示することは、患者さんからすると、見つけやすいっていうところにつきますね。
何か困った患者さんは、その分野に特化した鍼灸院を探す傾向があるはずなので、専門性はマーケティングにもなりますよね。だからこそ専門性は謳うだけでなく、それに見合った中身が前提になるのだと思います。伊藤先生の鍼灸院ならではの工夫ってありますか。
ツルタ
伊藤先生
鍼灸施術以外では行動療法、飲水・食事を含む生活指導は心掛けてやっています。また患者さん自身に記録してもらう排尿日誌は、治療効果の評価に極めて重要です。カップでおしっこを測って、24時間分を記録用紙につけてもらいます。膀胱容量や排尿間隔を把握することができ、適切な1日の水分摂取も指導が可能です。このような指導は多忙な泌尿器科外来では十分におこなわれません。我々鍼灸師が担える重要な役割の一つと考えています。
それなりに時間をかけることが多い鍼灸院ならではのできることがありそうですね。
ツルタ
伊藤先生
また自覚症状スコアも定期的につけていただき、膀胱容量などの客観的な変化と併せて患者さんと共有することで、納得して治療を受けてもらえるよう努めています。
なかなか、そこまでできないので歯痒いですが……。
ツルタ
伊藤先生
今後は、排尿の問題を抱える患者さんにどんな評価尺度を用いるのが適しているかについても、鍼灸関連の学会でも示せればいいなと思っています。
そういうものを学会が示してくれたら「こういう患者さんが来たらこのスコアを使おう」と、準備することができますね。お話を聞いて、たしかに先生のやり方がモデルケースとして、広がってくれたらいいなって思いました。
ツルタ
伊藤先生
僕が取り組んでいる領域なんて狭いですから、あまり大それたこと言えないですけど、しぶとくやっていることだけが自分の取り柄なのかなって思っています。
今後、泌尿器科疾患に対する鍼灸治療が盛んになると、「泌尿器科疾患+鍼灸」の検索で伊藤先生の鍼灸院がヒットするケースが減るかもしれません。それはデメリットに感じないですか。
ツルタ
伊藤先生
そんな状況になった時には、泌尿器科疾患を専門にする鍼灸師みんなが苦労なく食える状態になっているんじゃないですかね。過活動膀胱で1,000万人、間質性膀胱炎は潜在的に20万人超、慢性前立腺炎も相当な数の患者さんがいるといわれているので…。その時には多分、医療連携も十分にできている段階だろうと思うんです。
そんなに大勢の患者さんがいるんですね。泌尿器科領域の専門性が高い鍼灸院、足りてなさそう。
ツルタ
伊藤先生
国内の現状では、頻尿や尿失禁の問題に対して、他職種が治療として提供できるものは行動療法以外にないんです。そんななかで鍼灸師には、他職種に決してできない方法で患者さんに治療を提供できるという強みがあります。さらなる有効性を示すことができれば、泌尿器科医療のオプションの1つになれるはずです。そんな先々を思い描いて地道に頑張っていきたいと思います。
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