これからの「鍼灸」の話をしよう(後編)/鍼灸師:伊藤 和憲

第三章 これからの「鍼灸師」たちへ

これからの鍼灸師に伊藤先生から伝えたいことはありますか?
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
これからの人たちには、鍼灸の価値を難病治療や疼痛治療の道具という狭い価値観で捉えてほしくないのよ。
「農民の子は農民」みたいな固定観念で縛られないでほしい。
先ほどからおっしゃっている「道具」の鍼灸から「考え方」の鍼灸へのシフトですね。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
そう、鍼灸には可能性がある。
これはいつも言ってるんだけど、鍼灸って「道具の名前」だから良くないんですよ。
本来の鍼灸とは「考え方」だから。
だって外科では手術をするからって、手術科やメス科とは言わないでしょう?
たしかに。このネーミングは独特です。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
そういう意味では鍼灸は単なる道具のことじゃないということを知ってほしい。
そして、新しい可能性を想像してほしい。
想像力ってナビゲーションだから、未来を憂うなら、たくさんの可能性を想像しなきゃいけない。
「思考は現実化する」と言うじゃない?
コンビニでバイトしてたらたまたま社長になった、なんてことはありえないじゃないですか。
社長になりたいという想像をして、どうしたら社長になれるかという策略を組むから社長になるわけで。
考えていないことは現実にならないですね。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
鍼灸師になったからこそ見える世界があるから、今の世の中にはない、新しい価値をいっぱい想像してほしいんだよね。
妄想を想像に変え、想像を現実に変えていける可能性が鍼灸にはあるということを、ぜひ若い人には知ってもらいたいな…と思います。
未来のために想像する、ということが大切だとして、現状で私たちができることや必要なスキルにはどんなものがありますか?
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
鍼灸の先生は鍼灸の本しか読まない人が多いよね。
でも、それは医療の中の鍼灸というめちゃくちゃ小さい世界の話なんで。
たしかに鍼灸関連の本は多いです。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
僕は今、1ヶ月に10冊、1週間に3冊くらい本を読むようにしてるんですよ。
鍼灸を社会の中で役立てようと思ったら、社会がどうなってるかわからないといけないじゃないですか。
だから、今売れている本はだいたいチェックするようにしています。
そういう本を読んでいくと、「鍼灸をここに使えるんじゃないかな」というアイデアがいっぱい出てくる。
伊藤先生のアイデアが幅広いのはそのあたりも関係するんですね。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
鍼灸の本だけを読むというのは、つまり道具を磨いているだけなんですよ。
たとえて言うなら「壺の磨き方」を勉強して、壺を磨き続けているわけです。
なるほど。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
でもね、この磨き続けた壺を、たとえば東京駅のど真ん中に置くのか、美術館の真ん中に置くのか…、どうすればその壺が一番輝くかは、磨いているだけじゃわからないでしょう?
場所が変われば置く壺も変わるし、置き方も変わるし、見せ方も変わるじゃないですか。
わかりやすい。環境によって選ぶ物や方法はガラリと変わります。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
今までは自分たちの道具を磨くことに精を出していたけれど、それが社会のどの位置で役に立つのかという視点が必要だよね。
社会問題とか、世間の人が注目してることに鍼灸師って疎いのよ。
そこをまず見た方がいいんじゃないかなということがひとつ。
たしかに、浮世離れというか、独特の世界を生きている人が多いように感じます。
本棚にどんな本があるかというのはひとつのポイントになりそうですね。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
そして、社会での立ち位置の話と一緒に、情報の共有化についても知っておいてほしいかな。
情報の共有化ですか。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
鍼灸って、流派や伝統があるから、鍼灸の手技は「隠してなんぼ」みたいな風潮があるじゃない?
だけどこれからは、情報がコミュニティ内で共有されていく時代だから。
オープンになっていなかったらつながらないんですよ。
つながるから価値がわかってもらえて、組織外の人たちがアシストしてくれる。
流派にしても勉強会にしても、オープンにすることには消極的なイメージがあります。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
ちょっと前にさ「AIに取られる仕事、取られない仕事」というのが話題になったじゃない?
ありました。けっきょく鍼灸師は仕事を取られないという話で落ち着いていましたよね。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
僕はね、あれは、取られないんじゃなくて「取りたいと思われない仕事」なんじゃないかと思っていて。
だって本当に社会に必要だったら、AIが取ってくれるわけですよ。
それは厳しいご意見。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
これから人口が減っていくとなると、鍼灸師は今よりも少なくなる。
そうすると今と同じスタイルではやっていられなくなる。
精度の高いAIに、任せられる部分を任せて、鍼灸師が本当にやらなくちゃいけないことをした方がいいんですよ。
AIや組織外の人と、つながらないということに価値を置いてしまったら、どんどん自分たちしか知らない、わからない世界になるだけで。
だから僕はいろんな世界とつながる、オープンマインドを持ってほしいと思うかな。
マインドも含めてオープン化していくというのが、時代の潮流なんですね。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
それに今は、社会人になってから鍼灸の世界に来る人もいっぱいいて、今までしてきた仕事をうまく活用して、活躍の場を増やしているじゃないですか。
今までの鍼灸業界には「鍼灸だけをする鍼灸師」しかいなかったけど、そうじゃなくなってきた。
そこが、最近の傾向のいいところだと思う。
たしかに社会経験を経て鍼灸師になる方は多い印象です。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
でも今はまだ、社会経験者のある人たちが、自分の社会経験を抑え込んで、「臨床歴何年」というような、いわゆる鍼灸師らしい鍼灸師になろうとするケースが多いと思うんです。
過去のことをあまり言いたがらない方はいらっしゃいますね。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
でも逆に、鍼灸業界以外での経験を経たからこその良い感性があるはずだし、抑え込むのはもったいないですよ。
僕は、違うキャリアパスを持っている人たちこそがこの業界を変えていくんじゃないかなと思うんです。
キャリアは自分が生きてきた証じゃないですか。
自分のキャリアを隠す必要はないですよ。
私も違うキャリアを歩んできた方々からは、問題意識や共感力の面において、ストレートに鍼灸師になった方々とは違った輝きを感じます。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
そうそう。そして、その感性を持った上で、この鍼灸業界を選んでくれたわけなんだから「ようこそ、いらっしゃい!」ですよ。
鍼灸師としては経験は浅いかもしれないけれど、パソコンの専門家かもしれない。
そういう人が鍼灸の未来を変えてくれるかもしれない。
言われてみれば我々「ハリトヒト。」の活動も、メンバーの前職時代のスキルが活動のベースになっています。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
でしょう? だから今は逆に、そういういろんな人たちが来てくれたということをうまく活用して、オープンソースのマインドを作り、鍼灸の価値をガラッと変えたいなと思うんです。
社会人から鍼灸師になった方のお話を聞くと、それをコンプレックスに思っている人が多い印象を受けます。
これは勇気付けられる。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
それと、これはもし書けるんだったら書いてほしいんだけど。
はい、どんなことでしょう?
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
現場で活躍している人たちと、そうじゃない人との違いはわかる?
僕はね「やってみたか、やってみなかったか」だけだと思うんですよ。
ちょっとだけでもやってみれば、想像が現実に変わるじゃないですか。
みんな「どうせやるなら成功しないといけない」と思うから、完璧になるまでやらないんだけど、やっちゃったらいいのよ。
失敗してもいいんだからさ。やっちゃわないからずっと頭の中でぐるぐるしているわけで。
伊藤先生も死ぬほど、というか、死にかけるほど失敗していらっしゃいますもんね(笑)。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
そうそう、いいか悪いかは別だけどね(笑)。
とりあえずやっちゃったほうが説得力が強いのよ。で、やったら形が見える化される。
そうすると矛盾点もわかるし、「これはこうした方がいいよ」と教えてくれる人も出てくる。
アドバイス好きな方は案外多いですよね。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
そう、それを真剣にメモして、ちゃんと実践したら、自分があたかも思いついたかのようになる(笑)。
(笑)(笑)(笑)
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
前にアドバイスをいただいたことを忠実に実行したら、以前アドバイスをくれた人が「随分いいことに気付いたね~」と言ってくれたんですよ(笑)。
アドバイスをしてくれた人は、何をアドバイスしたかあまり気にしてないからね。
とにかく実践してみて、それからは素直に耳を傾けるということが大事ですか。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
そうそう。もし、誰かがアドバイスをしてくれたら、謙虚にそれを聞く。
もし、否定されたとしても、それは当然。
逆に「すごいね」とか「すばらしいね」で終わっちゃったら、あんまり意味がないんだよね。
私も失敗の数なら自信があります(笑)。
月並みですけど、失敗から学ぶことの方が大きいですし。
先生の話を聞いていると、鍼灸師もそんなに悪くない気がしてきました。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
僕ら鍼灸師はさ、よく飲み会とかで「鍼灸は将来危ういかもしれない」って話すじゃないですか。
自分たちはこれからどうなるのかなって心配してるわけですよね。
でも企業さんや市町村、特に過疎化が激しい町の人たちが心配していることは、そんなレベルじゃないんですよ。
本当に間違いなく、町がなくなるかもしれないんだから。
私の実家もけっこうな田舎で、将来を想うと不安、というか恐怖すら感じます。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
だから彼らは真剣で、やれることなら何でもやる。
「困ったね」なんて話してる僕たちは、本当は困ってないんだよ、たぶん。
(笑)(笑)(笑)
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
「将来どうするんだろう」と言いながら、困っているふりをしてるだけで困ってない。
本当に困っている人は、なんでもトライするんです。
目の前にある「それ」が毒かもしれなくても、食べなかったら死んじゃうから、食べるわけですよ。
その思いを知っちゃうと、「鍼灸業界の将来はどうなるのかな?」という行動の伴わない話は、なんて甘っちょろいんだろうと感じるよね。
そう言われるともう、ぐうの音もでないです(苦笑)。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
それにね、これは僕の考え方なんだけど、すでに良いものをより良くするのって難しいんですよ。
たとえば98%の受療率を、2%上げるのは難しいでしょう。
でも5%の受療率を上げるのは超簡単じゃないですか?
余白を比べてみたら、めちゃくちゃ簡単だなと思う。
そう思ったら、今の現状は必ずしも負じゃないんですよ。
めちゃくちゃポジティブな発想です(笑)。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
考え方を変えたら、状況もガラッと変わるわけで。
だから僕は今の患者さんを、医療者どうしが奪い合うことには全然興味がなくて。
今、この場にいない人たちを、鍼灸のフィールドに連れてきたいわけです。
そうやってる人がまわりにいないから簡単ですよ。
5%の中でがんばっている人たちと、95%の大海原を泳いでる僕の違いですよ(笑)。
のびのびとお仕事をされているわけですね(笑)。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
でも、僕らみたいに不満がある世界というのは、考え方によっては好転するチャンスが多いのよ。
不満があるから、考える力が生まれるわけで。
不満があるから、良い方向に変えていこうって動けるわけじゃないですか。
これからの未来に希望があるというのは、すごいエネルギー源です。
スキカラ
スキカラ

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