これからの「鍼灸」の話をしよう(後編)/鍼灸師:伊藤 和憲

第二章 「地方と企業」鍼灸の生かし方

「鍼灸が社会にどんな価値を提供できるか?」そのための試みが伊藤先生がされている「養生」にもつながっているわけですね。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
僕は2018年から、養生の寄附講座※を持ってるんですよ。
「ハリトヒト。」もクラウドファンディングをしているよね。
寄付講座というのは大人版クラウドファウンディングみたいなもので、「こういうことをしたいな〜」と言ったら、それに賛同する企業がお金を寄附してくれるわけですよ(笑)。
(※寄付講座…民間企業や行政など、大学や研究機関の外部から寄附された資金や人材を活用し、研究教育をおこなう活動)
いやいや、そんなに簡単ではないないはずです(笑)。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
まぁね(笑)。でも、今までは○○という病気を治すために研究するという約束があって、お金をくれたわけ。
でも今僕がしているのは養生という、新しいシステムを作る講座なのよ。
これがどんなシステムになるかはわからないわけで、ある種賭けみたいなもんですよね。
それに対してお金が集まるということを考えてみると、社会のニーズもある程度、そういうところにあるんじゃないかなと感じるんです。
臨床の現場でも、養生のような鍼灸の考え方が求められていることを実感しています。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
今まではさっきも言ったように、医療だから厚労省の管轄だったんだけど、厚労省じゃない省庁や企業さん 、地方に住む人たちや働く人たち、行政関係の人たち、そういう方々と連携を組んで、新しいコミュニティを作っていくところです。
健康をキーワードにしてね。
こんなことを言ったらあれなんですが…、伊藤先生って鍼灸師らしからぬ独特な感性をお持ちですよね?
周りに話が合う人っているんですか?
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
あんまりいないかもしれないね(笑)。
むしろ違う分野の人の方が理解はしてくれるかもしれない。
これは実際やってみてわかったんだけど、僕らがお医者さんにコンプレックスがあるように、企業の方もお医者さんと組むのはすごくハードルが高いみたいなんですよね。
お医者さんは誰にとっても特別な存在と思われているということですね。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
でもね、僕らって知らないうちにマインドコントロールされてるから。
鍼灸師って現代医療の中ではあまり価値がない資格のように思うじゃないですか。
つぶしが効かない資格とか、コストパフォーマンスが悪い資格とかよく言われますね(苦笑)。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
でも企業さんから見たら、国家資格を持ったれっきとした医療者なわけですよ。
すんごい価値なんですよ、向こうにとっては。
そして、お医者さんとはできなくても、僕たち鍼灸師とだったら何かできるんじゃないかという視点が企業にはある。
鍼灸師という資格を、我々よりも評価してくださっているわけですね。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
たとえば田舎の人たちからしたら、お医者さんではないけど「病気を治してくれる人が来てくれるんだ」という、この価値観ね。
ところ変われば価値が変わるわけで。
そういう意味では違う分野の方が、僕らの価値や可能性を感じてくださっている。
「先生、こんなことに使えませんか?」「この資源を活用できませんか?」と聞いてくださる。
その際に、僕たちの気付いていない「本当の鍼灸の価値」に、逆に気付かされることも多いんです。
「本当の鍼灸の価値」…。考えたらわくわくしてきます。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
実は企業さんも作っているのは道具だけで、考え方、つまり「OS」を作っているわけではないのよ。
たとえば「38度5分にあたたまるカイロを作って」と言われたら作れる。
でも「38度5分のカイロを、どこに使えば健康にいいのか?」はわからないのよ。
身体を温める道具を、健康という視点で、どのように使えばいいかがわからない。
企業さんの持っている道具に、鍼灸師が考える健康のアイデア、養生という考え方を組み合わせたら、これはマッチする事例がいっぱいあるんじゃないかと。
そんなプラットフォームを作りたいなと思ってね。
なんだか新しいサービスが生まれそうで、ワクワクしますね。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
企業側は、健康の考え方を全然知らないからさ。
企業が鍼灸師に質問をするとなると「ツボを聞かれる」とかを想像するかもしれないけど、そういうことはあんまりなくて。
「どうやってこれからの健康を考えるか?」ということに企業の人たちはすごく真剣なんですよ。
企業さんがそういった「考え方」に興味を持つというのは少し意外な感じです。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
僕たち以上に自分たちの将来を考えているからじゃないかな。
実際の問題として、企業は社会に貢献して売り上げをあげなければ、なくなっちゃうかもしれないもん。
企業としても商品の機能や性能に加えて、社会的なメッセージや価値が必要だということでしょうか。
それに、企業さんも健康を商品やサービスとして取り扱うことはできても、医療や治療には口出しはできないですもんね。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
そうだね、良い意味でも悪い意味でも、お医者さんがそこには入れないようにしているから。
だから病気や治療ありきではない、「ポジティブな健康のあり方」を語る人たちのコミュニティが必要だし、すでに僕は作ろうとしている。
そこには可能性があると感じるんだよ。
鍼灸業界がそのコミュニティの形成を実現するためには、西洋医学という今のOSから、一旦離れる選択をしないといけないんだけどね。
現状のまま進むか、新たな方向に舵をとるか…。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
あと、この話がなぜ重要かと言うと、今は第四次産業革命と呼ばれていて、社会が大きく動こうとしている時なんだよね。
特に IoT※を基準としたテクノロジーが大きく台頭してきて、今までとは価値判断が変わっちゃう時代が来ている。
(※IoT…現実とインターネットをつなぎ新たな価値を提供するしくみ)
最近よく聞くキーワードです。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
それには情報が広まるスピードも含まれていて、いわゆるシフトが激しいわけですよ。
そういう意味では、医療も例外ではなくて、社会とともに大きくシフトしていくわけです。
従来の医療から新しい医療に変わるこの瞬間に、僕らの考え方を「新しい医療情報」として、社会に放り込むことができるかどうか。
この先、こんなに大きなシフトチェンジは来ないと思うので。
今は鍼灸業界にとって、大事な局面ということですね。
スキカラ
スキカラ

NEXT:第三章 これからの「鍼灸師」たちへ

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