鍼を受けてる時間って、こんなに気持ちよくて幸せなんだ(後編)/鍼灸師 中根 一

だから遊びやめられないんです

ちなみに、気や陰陽って、頭で知ってるのと、身体で理解して「これだ」って納得できるのとは違いますよね。そこでつまずく学生さんが多いんじゃないかと思うんですが。
先生はどういうタイミングでそれを解決されましたか?
スキカラ
スキカラ
中根先生
中根先生
もー、鋤柄くん。答え、わかってるくせに。
スキカラ
スキカラ
中根先生
中根先生
そりゃ、遊びですよ!
え、遊びですか??
スキカラ
スキカラ
中根先生
中根先生
そうだと思うよ。たとえば、美味しいご飯を食べたいとき。
自分が「このお店の佇まいがいいな」と思ったら、お品書きを確認して、えいやって行く。
その観察力と決断力と、責任を背負ってさ(笑)。
以前は食べログなんかなかったからさ、誰かの評論家みたいなコメントなんて気にしない。
そういうのって粗探ししてるみたいだし。
理屈って面白いんだけど、物事を正誤表と照らし合わせてマイナス査定しちゃいたくなる感じしない?
目の前にある幸せに素直じゃないよね。
もっとおおらかに「美味しいなぁ」って感じられればいいと思うの。
そういった遊びの時間が、直感っていうセンスを磨く機会だったんじゃないかな?
陰陽五行思想って自然学なんだから、自然は感覚で感じるものでさ。
綺麗な景色を見て、心が洗われていく時に、理屈なんていらないじゃん。
いつもと違うことをして遊ぶことで、いろんな綺麗や美味しいを体験して、雨が降ったって寒くったって「楽しかったなぁ」っていう。
陰陽と五行って、森羅万象にあるわけじゃん。
だから遊びの中にもあるし、親子関係の中にもあるし、恋人関係の中にもあるし、いろいろなシーンで身体で感じられるものなのよ。
中根先生は「陰陽」という概念を勉強した上で、遊びを繰り返すことによって、この世界がだんだんと。
スキカラ
スキカラ
中根先生
中根先生
いいまとめだね。そうだね。勉強、実地、少し勉強、たっぷり実地ですね。
だから遊びやめられないんです、今も。
また見える世界も変わってくると。
スキカラ
スキカラ
中根先生
中根先生
そう。「美味しい」って、感覚でしょ。
「星が綺麗」ってのも感覚、「そよ風が心地よい」ってのも感覚。
どこまで行っても人って感覚の中で生きてるじゃん。
この感覚に対しての感度の高い人って幸福度も高いし、たぶん自己肯定感も高い。
そこから「なんでだろう」とか「またこれやってみよう」というアクションが生まれるし、問いも立ちやすいと思うのね。
だから感度がいいとか、自分の感覚に対して素直とか。あるいは直感を信じてるとか。
なんかそういったことが、すごく大事な気がするのね。

鍼灸院ってハッピーな場所なんだから

中根先生の感性ってすごく独特ですよね。鍼灸という仕事は、先生からどう見えているんですか?
スキカラ
スキカラ
中根先生
中根先生
2017年の全日本鍼灸学会の東京大会のときに、ナイトセミナーで「鍼灸師にならなかったら何したいですか」って聞かれて「ホテルのコンシェルジュ」って答えたの。一部から失笑をかったかもしれないけど。
でも、なぜあそこでホテルのコンシェルジュと答えたかっていうと、鍼灸院での仕事って、ホテルでの仕事と似てると思っているからなの。
それはいったいどういう意味ですか?
スキカラ
スキカラ
中根先生
中根先生
誰かが作ってる鍼と灸を買い揃えて、鍼灸院っていう然るべき場所で丁寧に施術を提供する。
ホテルも誰かが作った茶葉やティーカップ、誰かが作ったソファや寝具を揃えて、上質な時間を提供してるでしょ?
何かを作り出しているわけじゃないんだけど、クライアントが安心安全に過ごす時間を、デザインしたりマネジメントする部分が、ホテルのコンシェルジュの仕事と似ててさ。だからそう答えたの。
施術の結果、「ああ、よく寝れた」でもいいし。「話をいっぱい聞いてもらえた」でもいいし。「痛みが止まった」でもいいんだけど。
鍼灸を受けてくださった方がいずれかの形でハッピーに向かっていく時間を、僕らは作ってるわけでさ。
しかも鍼を身体に刺したり、お灸を置いて火を点けるんだから、絶対に安心安全じゃなかったら任せてもらえない。
それをやってる鍼灸師って、すごいと思うんだよ。
どちらも最上級のサービスという感じですね。
スキカラ
スキカラ
中根先生
中根先生
だからさっき言ったみたいに、治療効果だけでは語れない価値が、鍼灸院にはあるって信じてるのね。
僕らは一応は鍼灸院という場所で鍼灸を提供しているだけであって。
実はリトリート施設でも、ウェルネスを提供するホテルでも、キャンプ場でも、どこでもやっていいと思う。
なるほど。
スキカラ
スキカラ
中根先生
中根先生
今まで僕たちは、病気を治すために鍼灸はあるんですよって言ってたんだけど、気持ちいい場所や綺麗な場所で提供する鍼灸を具現化していけば、鍼灸の受療率や、鍼灸師を雇ってくれる異業種とのコラボや、鍼灸師になりたいっていう人たちが増えて、少しは業界の裾野が広がるかもしれないって思うんですね。
今までとは違う投かけですね。治ってそれを喜んでもらうだけじゃない可能性。
スキカラ
スキカラ
中根先生
中根先生
そう。結局、彼氏がほしいとか、ブランド品がほしいとか、アンチエイジングしたいといった諸々の願望は、「消費をすることで誰かとの差分を埋められれば、幸福になれるだろう」っていう幻想から来るじゃない?
理想とのギャップを埋める幸福探しは永久に終わらないんだけど、身体感覚として自分の幸福を知っていれば「あぁ、このフィーリング!」ってセンサーがキャッチした瞬間に、いつでもどこでも幸せになれる。
僕らの仕事っていうのは、どこでも幸せを作れる仕事なんですね。
スキカラ
スキカラ
中根先生
中根先生
そう、作れるんです。どこでもできる。
だからホテルやリトリート施設に鍼灸の場を作ることは新しいとか、変わったことじゃなくて、文脈としてアリだと思う。
逆になんでないんだ?ぐらいの。
スキカラ
スキカラ
中根先生
中根先生
そうそうそう。だと思います。
最後にあらためてお聞きしたいんですが…、先生は鍼灸のどこが好きですか?
スキカラ
スキカラ
中根先生
中根先生
Meridianに来てくれた人が鍼灸を通して幸せになってくれたら、僕も幸せでさ。
こういったシンクロする時間は充実感あるよね。たぶん一緒に幸せになっていく感じが好きなんだろうなぁ。
良いですね。
スキカラ
スキカラ
中根先生
中根先生
幸せな時間をつくるために、ふかふかのタオルを用意したくて、夜な夜な高辻堀川のコインランドリーで乾燥機をまわすわけですよ。
実は最近、僕もそこに通っているんですよ。
スキカラ
スキカラ
中根先生
中根先生
いいね、今度一緒に行こうか(笑)。
よろしくお願いします(笑)。
スキカラ
スキカラ

【記事担当】
取材・文=スキカラ
撮影・編集=さまんさ

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