「片頭痛」に対して鍼灸師ができること/鍼灸師・博士(医学): 石山 すみれ

今回の学びは「片頭痛」がテーマです。

ガイドラインの改訂や新薬の登場で新たな局面を迎えた片頭痛治療。

そのような中で鍼灸治療も非薬物療法の1つとして期待されています。
そんな片頭痛治療の最前線と鍼灸師に求められる役割について茨城県立医療大学の石山すみれ先生に執筆をお願いしました。

いただいた原稿を、ハリトヒト。編集部が対談形式に再構成しています。

石山 すみれ(いしやま すみれ)先生

略歴
2012年3月 新宿鍼灸柔整専門学校(現:新宿医療専門学校) 卒業
2016年3月 筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター 研修終了
2017年3月 筑波大学大学院人間総合科学研究科フロンティア医科学専攻 修了
2021年3月 筑波大学大学院人間総合科学研究科疾患制御医学専攻 修了
2022年8月 茨城県立医療大学 保健医療学部 医科学センター 助教 現在に至る

頭痛のタイプを知ると治療のヒントが見えてくる

石山先生
石山先生
鍼灸臨床の場で、よく遭遇する症状として「頭痛」があります。主訴ではなくても、問診を取っていくと「実は頭痛もあって」という経験は、鍼灸師であれば一度は経験したことがあるのではないでしょうか。
「鍼灸院で相談してよいのかわからなくて言わなかったけど、実は悩んでて」っていうパターン、多い気がします。
タキザワ
タキザワ
石山先生
石山先生
片頭痛は片側がズキズキ、目の前にチカチカした前兆があって、嘔吐するような頭痛、緊張型頭痛はぎゅーっと締め付けられるような頭痛、と思って問診を取ると、「あれ?どっちにも当てはまらないような?」と少し困ってしまいますよね。
そうなんです。頭痛についてもっと知識があれば……。
タキザワ
タキザワ
石山先生
石山先生
鍼灸師が診断そのものをおこなうことはありませんが、患者さんがどんなタイプの頭痛を持っているかを知ることはとても重要です。頭痛の特徴が理解できると、疾患の予後やトリガーなど患者教育に役立つヒントがたくさん見えてきます。今回はそんな身近な頭痛について患者さんの訴えが多い片頭痛に着目して最新の知見を紹介していきます。

片頭痛は日常生活の大きな妨げとなる

石山先生
石山先生
さっそくですが、片頭痛の患者がどのくらいいるかってご存じですか?
たくさんいるって印象だけで具体的な数までは調べたことなかったです。
タキザワ
タキザワ
石山先生
石山先生
国内での片頭痛の有病率は8.4%と言われています。患者の多くは20~40歳代であり、日常生活支障度も高いことから早期に適切な治療が望まれます1,2)
多いですね。しかも働き盛りとなると仕事や生活への影響も気になります。
タキザワ
タキザワ
石山先生
石山先生
また片頭痛患者の大半は、子どもの時からいわゆる「頭痛持ち」です。国内のデータとして、小中学生3,285名を対象とした研究では、1,623名が頭痛を経験したことがあると回答し、別の研究では、中学生の4.8%が片頭痛の診断基準を満たしたという報告もあります3,4)。私たちの調査では、早い子では4歳から頭痛を感じていて、さらに頭痛があると回答した高学年の子どもでは約半数で頭痛による学校の欠席経験がありました5)
頭痛は子どもの学習にも影響する。
タキザワ
タキザワ
石山先生
石山先生
加えて、日本人を対象とした片頭痛の疾病負担のインターネット調査では、17,071名の回答者のうち20.7%が中等度から重度の頭痛による障害を示していました6)
頭痛が日常生活・学校生活へ与える影響が大きく、早期から治療するべき疾患であることがわかると思います。
子どもの頃からの頭痛が大人になっても続く……。少しでも早く治療して生活への影響を減らすのが大事だとわかりました。
タキザワ
タキザワ
石山先生
石山先生
さらに最近では、片頭痛の発作がない時(間欠期)の障害が注目されています。ここで質問ですが、片頭痛患者は、痛みがない時なら頭痛持ちではない人と変わらないと思いますか?
痛みがない時は問題ないのでは……。
タキザワ
タキザワ
石山先生
石山先生
残念ながら答えはNOなんです。片頭痛患者の発作間欠期の日常生活支障度を測る評価表としてMigraine Interictal Burden Scale-4(MIBS-4)という質問票があります。MIBS-4は片頭痛発作がない時(発作間欠期)を評価するためのもので、日常生活・職場・人間関係・感情の4項目からなります。スコアが高いほど、発作間欠期の負担が高いことを示しますが、国内の調査で片頭痛患者の約4割にMIBS-4において中等度以上の負担があることが明らかになりました6)
片頭痛患者の半数近くは発作が無い時間も日常生活になんらかの支障を感じている。
タキザワ
タキザワ
石山先生
石山先生
「次の発作がいつ来るのか不安」「痛くなるかもしれないから、お出かけするのをやめよう」などは、頭痛がなくても片頭痛によって日常生活に支障をきたしている状態です。
発作への不安で日常生活を自由に送れないのは、きっとおつらいですよね。
タキザワ
タキザワ
石山先生
石山先生
そうした不安を取り除くことも鍼灸が得意とするところではないかと考えます。

片頭痛治療には非薬物療法も必要とされている

石山先生
石山先生
片頭痛の治療は、今まさにパラダイムシフトの真っ只中にあります。2021年に国内で抗CGRP関連抗体薬が認可承認され、片頭痛の治療は大きな転機を迎えました。適応や価格などの問題はありますが、新薬によって生活が劇的に改善した患者が多いことも確かな事実です。
片頭痛がある人たちには朗報ですね!
タキザワ
タキザワ
石山先生
石山先生
ですが、どんな新薬も魔法の薬ではありません。薬物治療に抵抗性、またさまざまな理由で薬物治療を希望しない患者もいます。
どんな治療法も万能ではない……。
タキザワ
タキザワ
石山先生
石山先生
さらに、片頭痛患者の多くは20~40歳代と働き盛り、子育て等多忙な時期なので、病院での処方薬より手軽な市販の鎮痛薬(Over-the-counter; OTC薬)を使う傾向にあります。
OTC薬はドラッグストアで簡単に手に入りますね。
タキザワ
タキザワ
石山先生
石山先生
上手く使えば生活の質を向上できるOTC薬ですが、使い方次第では二次性頭痛を引き起こします。それが薬剤の使用過多による頭痛(Medication overuse headache: MOH)です。
以前のハリトヒト。学びで菊池友和先生に解説してもらいました。
タキザワ
タキザワ
石山先生
石山先生
改めて説明するとMOHというのは、以前から一次性頭痛を持つ患者において、急性期または対症的頭痛治療薬を、3カ月を超えて定期的に乱用(治療薬により1カ月に10日以上、または15日以上)した結果として1カ月に15日以上起こる頭痛のことです7)。菊池先生もおっしゃっていたと思いますが、MOHは予防可能な頭痛と言われていて、急性期薬の服用を減らすためには非薬物療法の併用も勧められています。
薬物治療が難しいケースやMOHを防ぐためにも非薬物療法が注目されているのですね。
タキザワ
タキザワ

予防にも急性期にも鍼治療は期待されている

石山先生
石山先生
次に、どのような患者に予防療法が必要かみていきます。
『頭痛の診療ガイドライン2021 』Clinical Question(CQ)Ⅱ-3-1に「どのような患者に予防療法が必要か」が記載されています。それによると「片頭痛発作が月に2回以上、あるいは生活に支障をきたす頭痛が月に3日以上ある患者では予防療法の実施について検討してみることが勧められる」と記載されています8)。
月2回発作がある人や3日以上生活に支障が出ている人と聞くと、予防が必要な患者さんはかなり多いのではと感じます。
タキザワ
タキザワ
石山先生
石山先生
予防療法に使用される薬剤は、抗CGRP抗体や受容体抗体薬、抗てんかん薬、抗うつ薬など選択肢は様々ありますが、片頭痛予防に対する非薬物療法として、ニューロモデュレーションや認知行動療法、鍼治療を考慮してもよいと記載されています8)。
ガイドラインでも予防目的で鍼治療が推奨されているんですよね。
タキザワ
タキザワ
石山先生
石山先生
非薬物療法は、薬物治療に対する不応例、不耐例、禁忌例、妊娠授乳中の患者などに対して考慮されたものですが、薬物療法との併用で単独治療よりも一層高い効果が期待されるとの報告もあります。頭痛専門医と連携をとり、患者を多職種でみていく重要性が示されていると考えています。
非薬物療法も取り入れることでより治療効果が期待できる。そのためには多職種で連携していくことが必要。
タキザワ
タキザワ
石山先生
石山先生
また頭痛の診療ガイドラインは2013から2021に改訂があって、鍼治療の掲載箇所が増えたことも大きなトピックスの一つだと思います。その中でもCQⅡ-2-1「片頭痛の急性期治療には、どのような方法があり、どのように使用するか」に鍼治療の記載が含まれたことは注目に値すると考えます。
片頭痛の急性期に鍼灸治療をするとかえって悪化させてしまうのではないか、急性期は鍼灸をやらない方がよいって意見も強かったですよね。
タキザワ
タキザワ
石山先生
石山先生
これまでは鍼治療=予防療法、すなわち痛みがない時期に介入し、頭痛日数・発作回数を減らすことに焦点が当てられてきました。ガイドライン上の推奨グレードはないものの、片頭痛の急性期・予防療法ともに多くの鍼治療の記載があることはこの分野での研究が盛んに行われ、多くの知見が集積された結果だと言えます。
予防だけでなく急性期にも鍼が期待されるようになってきた。鍼治療の研究が進むことで町の鍼灸院に求められる役割が広がってきているんだなぁと感じました。
タキザワ
タキザワ
石山先生
石山先生
そうなんです。実際に医療機関から鍼灸院へ患者を紹介するといった連携が臨床で生まれやすくなります。研究成果を臨床に還元する最もわかりやすい方法がガイドラインへの掲載だと思っています。自分の論文が次の改訂の時に引用されるように、少しでも鍼の推奨が好意的なものになるようコツコツ研究を続けていくつもりです。

連携のポイントは安全性と正しい知識

石山先生
石山先生
先ほど「連携」という言葉を出しましたが、ここからはどうしたら連携を取れるか、ということについて私見を交えてお話ししていきます。
「連携」という言葉はよく聞くけど、具体的にどうしたらいいかあまりイメージできていません。
タキザワ
タキザワ
石山先生
石山先生
昨年度、私は全国の頭痛専門医に対して郵送調査をおこないました9)。調査内容は、鍼灸治療への興味関心、連携の実態、適切だと思われる連携の条件、鍼灸治療へのイメージです。
回答数は276名(回答率28.6%)と低いですが、鍼灸治療へ興味があると回答した医師は82.6%でした。
具体的にはどんな質問をしたんですか?
タキザワ
タキザワ
石山先生
石山先生
いくつかの項目があるのですが今回はその中から「頭痛患者に鍼灸治療を中止させた経験」についてピックアップしてご紹介します。
中止させた経験……ちょっと聞くのが怖いような。実際に鍼灸を中止させた医師はどのくらいいたんですか。
タキザワ
タキザワ
石山先生
石山先生
中止させた経験があると回答した医師は4.0%(11名)と少数でしたが、認められました。
どんな理由で中止させたのか気になります。
タキザワ
タキザワ
石山先生
石山先生
自由記載で聴取したところ、効果がない・症状の増悪が最も多く、次いで重大な有害事象への危惧、手技への不安が続きました。また1件ですが、診療の妨げになると感じたという回答もありました。
この回答を石山先生はどう受け止めましたか。
タキザワ
タキザワ
石山先生
石山先生
1つはどんなに治療効果が高くても、安全性を疎かにしては連携が難しいということ、もう1つは正しい知識を持って患者と接することが頭痛診療側・鍼灸治療側双方の治療効果を向上させるということです。
医師との連携には安全性と正しい知識が何よりも重要。
タキザワ
タキザワ
石山先生
石山先生
安全性については、海外の報告で検討されていて、鍼治療は予防薬と同等程度の効果があり、かつ安全性が高いと評価されています10-11)
それらを根拠に鍼治療は効果的で安全ですよと、頭痛診療側に伝えていけばよいのでは?
タキザワ
タキザワ
石山先生
石山先生
ですが、海外の報告の大半はTraditional Chinese Medicine(TCM)に基づいたもので、日本の鍼灸とは使用鍼の長さ・太さが異なります。また海外の報告では基本的に鍼通電療法は用いていないので、通電刺激による安全性は検証する必要があると思います。さらに言えば、海外の報告の対象は日本人ではないので、日本人の頭痛患者に対して日本の鍼が安全かどうかは不明です。
日本で日本人におこなわれている鍼灸の安全性や効果の評価…つまり日本での研究が必要なんですね。
タキザワ
タキザワ

使われる経穴にも日本の鍼灸治療の多様性が見られる

石山先生
石山先生
私は昨年度からの2年間、全国各地で鍼灸師を対象に頭痛専門医による講演と鍼灸師による実技セミナーを開催しました。目的は、頭痛に関心を持つ鍼灸師に対して、頭痛診療の一般的な知識の啓発をすることと今後の連携体制の構築です。
連携のために様々な活動をされているのですね。
タキザワ
タキザワ
石山先生
石山先生
そのセミナーの前後でアンケートを取得していました。その中で、「臨床で片頭痛を見る機会がある先生にお伺いします。片頭痛患者で使用頻度の高い経穴を5つ教えてください。」という質問を設けました。
それは気になります。どんな結果が出たのですか。
タキザワ
タキザワ
石山先生
石山先生
解析した結果、日本国内で片頭痛を診ている鍼灸師では風池、合谷、百会、頭維、太陽の順に使用頻度が高いことが明らかになりました12)
一般的でよく使われる経穴という印象です。
タキザワ
タキザワ
石山先生
石山先生
この経穴だけ見るとTCMに準じた海外の報告とほとんど差がありませんが、それぞれの経穴の関連を解析したところ興味深い所見が得られました。
1つ1つの経穴だけでなく組み合わせにも着目したんですね。
タキザワ
タキザワ
石山先生
石山先生
最も関連が見られた経穴は完骨と天柱、すなわち両者は同時によく治療に用いられている組み合わせということになります。同じ結果が合谷と太衝、頭維と百会、頭維と太陽、陽陵泉と内関にも認められました。完骨と天柱は先行研究ではあまり頻繁に用いられる経穴ではなく、トリガーポイント鍼治療や局所治療など日本の鍼灸治療の多様性を表している結果ではないかと考えます。
様々な手法が用いられている日本だから出た結果だと思うとおもしろいですね。
タキザワ
タキザワ
石山先生
石山先生
私自身は経絡を用いた治療に詳しくありませんが、陽陵泉と内関が有意な組み合わせとして現れていることも予想外で、この結果を鍼灸師仲間と考察し合いたいなと感じたくらいです。
経穴の組み合わせで治療効果が変わるのか、変わるならどれくらい違うのか気になりますね。
タキザワ
タキザワ
石山先生
石山先生
これは使用頻度だけで実際の治療効果についての言及はしていません。でも、実際現場で働く鍼灸師がどの組み合わせで治療しているのか、どんな患者にどんな組み合わせで取穴するといいのか、というテーマは研究者のみならず鍼灸師全体で関心があるトピックスではないかと思います。今後は、それら経穴の組み合わせと治療効果についても言及できるような研究も計画中です。

NEXT:良くならない患者との出会いから始まった「C2PNfS」の研究

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