【目次】
第一章 挫折から鍼灸の世界へ
第二章 機序から臨床へ
第三章 病とパラダイムシフト
第四章 戻ってきた日常
第五章 はじまりの養生
第六章 鍼灸師 伊藤和憲の夢
トリガーポイント研究の第一人者であり、明治国際医療大学の学部長であり、養生のコミュニティを実践する人。
間違いなく業界のキーマンのおひとりである伊藤先生は、実はわたしの学生時代の恩師でもあります。
10年ぶりに学生時代に戻った気持ちで、お話をうかがいました。
前編は「伊藤先生の今までのキャリアと夢」について。
後編は「鍼灸のこれから」について。
2本立てでお送りします。
伊藤 和憲(いとう かずのり)先生
■ 現職/学内
明治国際医療大学 鍼灸学部 学部長・教授
明治国際医療大学 大学院鍼灸学研究科 教授 兼 養生学寄付講座 教授
明治国際医療大学 附属鍼灸センター 鍼灸臨床部長
明治国際医療大学 産学官連携推進センター長
明治国際医療大学 アスリートサポート 補佐
■ 現職/学外
(公社)全日本鍼灸学会 学術研究部長
(公社)愛媛県鍼灸マッサージ師会 顧問
(株)オムロンヘルスケア アドバイザー
(株)桐灰化学 アドバイザー 他
■ 略歴
2002年 明治鍼灸大学 大学院 博士課程修了
2002年 明治鍼灸大学 鍼灸学部 臨床鍼灸学教室 助手
2008年 University of Toronto (Canada), Research Fellow
2009年 明治国際医療大学 鍼灸学部 臨床鍼灸学教室 講師
2011年 明治国際医療大学 鍼灸学部 臨床鍼灸学教室 准教授
大阪大学 医学部 生体機能補完医学講座 特任研究員
2015年 明治国際医療大学 鍼灸学部 臨床鍼灸学教室 教授
2017年 明治国際医療大学 大学院 研究科長
明治国際医療大学 附属鍼灸センター長
2019年 明治国際医療大学 鍼灸学部学部長
今日はよろしくお願いします。
卒業してからも、トリガーポイントの研究者としてご高名になられる姿、また、メディアでご活躍される姿は拝見しておりました。
そして先日の鍼灸フェスタでは、「養生」をテーマとした活動に移行されているとお話されていましたよね。
鍼灸柔整新聞の「養生」についての連載も、興味深く読ませていただきました。
今日はいろんな顔をお持ちの伊藤先生に、お話をじっくり伺いたいと思います。
では、そもそもなぜ鍼灸師になられたのかというお話を聞いたことがなかったので、そのあたりから聞かせてください。
第一章 挫折から鍼灸の世界へ
「薬がなかなか使えないような難しい病気の子どもたちに、自分がしてあげられることはないかな」という漠然とした想いから医者を目指していたんですよ。
だけど一方で「医者じゃなかったら意味がない」と思っている自分もいて。
考えているうちに、なぜそもそも医者になりたかったんだろうと。
自分は医者というブランドにこだわっていたのかな? と自分自身に問い詰めたんです。
そうしたら「困ってる人を救いたいという純粋な気持ち」に気付いたんですよ。
その当時は邪な気持ちもまったくないですから。
人のためになることって、別に医者じゃなくてもできるんじゃないかなと思って。
鍼灸ならお医者さんが助けられなかった人たちを、治すことができるんじゃないかと思って、この世界に入ったんです。
ちょっと言葉は悪いですが、何のためにこの経絡経穴のツボの名前を覚えているのかとかそんなことばっかり考えちゃうんですよ。
目に見えない気や血と言われるものを、あたかも皆がわかったような…、そういう会話ってありますよね?
一体何なんだろうこれはと。
そんな時にたまたま聞いたのが、恩師である川喜田先生の生理学の授業だったんです。
単純なので「これだー!」と思って。
東洋医学を好きになるためにも、西洋医学で解明されている鍼の機序を一生懸命勉強しようと。
その結果、大学院の基礎研究に進むことになって、川喜田先生の生理学教室に入りました。
当時の僕の師匠だった川喜田先生に「将来臨床家として成功するためには何が必要か」と聞いたら「ちゃんとした根拠と理論を持っている方がいいだろう。鍼灸は根拠と理論がはっきりしていない学問だから。答えは見つからないかもしれないけど、どうしたらそれが見つかるかということ学んだ方がいいんじゃないか」と言われて。
根拠や理論を学べるのが、僕にとって生理学教室だったので、そこに邁進することにした、という感じなんです。
そして、研究をすることで鍼灸治療のすごさを機序として目の当たりにすることになりました。
その当時も、今も鍼灸治療ってすごいなと思う。
これが僕の中では第一章。
第二章 機序から臨床へ
「動物実験で良い結果が出たからって、実際に人間でも同じ効果があるの?」とか「臨床は何例経験したことあるの?」と言われても、生理学教室にいる自分は臨床を経験する機会がないわけですよ。
今もそうかもしれないけど、当時もエビデンスがすごく重要視されていて、僕も機序から臨床の科学化という方向に移っていくわけです。
僕も単純なので、実際10本くらい出してみたんです。
「痛み」という機序を、さらに臨床にフィードバックするために臨床試験をバンバンやって。
ただその反面ですよ。自分も世の中も状況はまったく変わらないし、なんなんだろうと。
研究していけばいくほどに、機序やメカニズムがわかり、なおかつ効果もある程度あるとわかった。
でも患者さんがついてくるかというと、そうではないじゃないですか。
僕が研究者として、かつ臨床家として、機序やメカニズムを明らかにし、何本も論文を書いたし、臨床も重ねたんだけど、患者さんがわんさか増えるわけじゃなかった。
なんだろうこのギャップは…と思っていましたね。
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