第三章 病とパラダイムシフト
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伊藤先生
そんな時に脳梗塞になったんです。過労がたたってね。
1年ほど入院する生活を送ることになったんです。
1年ほど入院する生活を送ることになったんです。
伊藤先生、入院されてたんですか!? 存じ上げませんでした。
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伊藤先生
手術しても治るわけじゃないし、かといってお薬があるというわけでもない。
まさに難病という感じですよね。
ここではじめて本当の意味で、鍼に頼ることになるわけですよ。
まさに難病という感じですよね。
ここではじめて本当の意味で、鍼に頼ることになるわけですよ。
今度は患者の立場で、ということですか。
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伊藤先生
大学の先生に鍼治療をしてもらって、僕自身がすごく感謝しているわけです。
根拠とか、なんで効くかとかそんなことはわからないけど、それが自分自身ではすごく良かった。
そうなってくると鍼灸というのは機序だけじゃないな、エビデンスだけでもないな、と。
根拠とか、なんで効くかとかそんなことはわからないけど、それが自分自身ではすごく良かった。
そうなってくると鍼灸というのは機序だけじゃないな、エビデンスだけでもないな、と。
伊藤先生のされていた研究を、根底から覆す変化ですね。
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伊藤先生
それに、そもそも自分自身が医療の最先端をやっていると思っていたのに、自分の病気すらもわかんないのは違うんじゃないかなって。
エビデンスや流行りものばっかりにとらわれていて、根本の「自分の身体」をわかってなかったのかと。
いや、わかっていなかったというよりは…、わかった上で、前兆を見逃していたんですよ。
自分は医療人として、患者さんにそういうことを教える立場として、本当にそれでいいのかなと思ってね。
エビデンスや流行りものばっかりにとらわれていて、根本の「自分の身体」をわかってなかったのかと。
いや、わかっていなかったというよりは…、わかった上で、前兆を見逃していたんですよ。
自分は医療人として、患者さんにそういうことを教える立場として、本当にそれでいいのかなと思ってね。
私も耳が痛いです。本来はお手本となるべきところですが…。
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伊藤先生
あと、ここが僕にとって大きな転機なんだけど、1年間も入院していたんで、自分の存在意義がわからなくなったんですよ。
たとえば変な話、患者さんに頼られたりとか、学生に頼られたりとか、そういう形で自分の存在意義を認識していた今までの自分がいたんだけれど。
たとえば変な話、患者さんに頼られたりとか、学生に頼られたりとか、そういう形で自分の存在意義を認識していた今までの自分がいたんだけれど。
わかります。仕事は生きがいですよ。
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![伊藤先生](http://haritohito.jp/wp-content/uploads/2019/09/itoicon3-300x300.png)
伊藤先生
でも入院しているうちに、患者さんは他の先生の担当になっていくし、授業は他の先生がやってくれるようになるんですよ。
中には「伊藤先生がいなくちゃ困る」と言ってくれた人もいたんだけど…。
でも、それってだんだん時間が経つと、すごく自分の胸を苦しめるんですよ。
僕が臨床に戻れないせいで、患者さんが困っている。
そして「悪くなった」と言われるわけですよ。
中には「伊藤先生がいなくちゃ困る」と言ってくれた人もいたんだけど…。
でも、それってだんだん時間が経つと、すごく自分の胸を苦しめるんですよ。
僕が臨床に戻れないせいで、患者さんが困っている。
そして「悪くなった」と言われるわけですよ。
入院している状況で、それは本当につらい。
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伊藤先生
今までは患者さんが来なかったら「もうちょっと来るようにしましょう」と言っていたし、患者さんに「頼りにしている」って言っていただくと「自分はすごいんだ」って…思ってはいないつもりけど、どこかでそう思っていたところがあったかもしれなくて。
人から頼っていただけるのってやっぱり嬉しいですもんね。
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伊藤先生
でも患者さんを「伊藤和憲がいなければいけない人生」に導いてしまった僕って、医療人として最低じゃないかなと。
本来であれば「先生はいなくなったけど、わたしは先生の教えを守っているおかげで健康なんだ」って言っていただけるほうが正しくて。
僕がいないといけない状態をつくってしまったのは、それこそ「悪い男」みたいな感じですよね。
「俺なしでは生きていけない人生を歩ませてしまった…」みたいな(笑)。
それって商売としては良かったのかもしれないけど、患者さんにとってはよくないなと思って。
本来であれば「先生はいなくなったけど、わたしは先生の教えを守っているおかげで健康なんだ」って言っていただけるほうが正しくて。
僕がいないといけない状態をつくってしまったのは、それこそ「悪い男」みたいな感じですよね。
「俺なしでは生きていけない人生を歩ませてしまった…」みたいな(笑)。
それって商売としては良かったのかもしれないけど、患者さんにとってはよくないなと思って。
そう聞くとすごく悪いことをしてるように聞こえます(笑)。
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伊藤先生
じゃあどうしたらいいんだろう、というのを1年間ずっと考えていて。
自分と向き合う1年間だったんですね。
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伊藤先生
さっきも言ったように自分の存在意義がわからなくなったんですよね。
生きている意味もよくわからなくなって。
そこで「いつ死ぬかわからないので、生きてる証に1日1冊読む」っていう、わけのわかんないノルマを自分に課すことになるんですよ。
生きている意味もよくわからなくなって。
そこで「いつ死ぬかわからないので、生きてる証に1日1冊読む」っていう、わけのわかんないノルマを自分に課すことになるんですよ。
闘病中なのに…伊藤先生ストイックすぎます(泣)。
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伊藤先生
真面目だよね(笑)。でも、その時に読んだ本が、今の知識につながっていくんです。
昔は機序の本とか英語の論文とか、そういうのばっかり読んでいたんだけど、そんなのは、読んでもあんまり役に立たなくてね。
昔は機序の本とか英語の論文とか、そういうのばっかり読んでいたんだけど、そんなのは、読んでもあんまり役に立たなくてね。
具体的にどんな本を読んだんですか?
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伊藤先生
「健康とはなにか」とか、「養生とはなにか」みたいなところを読み始めた。
でも、そういう本を読んでいると「治療とは、鍼や灸を持ってすることだけではないのではないか」「病気の今の自分にだって、患者さんのためにできることがあるんじゃないか」と思えてきたんですよ。
病気になる前は鍼灸師である自分=鍼や灸をしている自分だけを想像してきたんだけど、そもそも東洋医学ってそんなことを言っているんじゃないから。
今の自分の状況でも、鍼灸師としてやれることがあるんじゃないかなってね。
でも、そういう本を読んでいると「治療とは、鍼や灸を持ってすることだけではないのではないか」「病気の今の自分にだって、患者さんのためにできることがあるんじゃないか」と思えてきたんですよ。
病気になる前は鍼灸師である自分=鍼や灸をしている自分だけを想像してきたんだけど、そもそも東洋医学ってそんなことを言っているんじゃないから。
今の自分の状況でも、鍼灸師としてやれることがあるんじゃないかなってね。
すごい転機!
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伊藤先生
病気になる前まではプラセボを省いて、鍼の純粋な効果や機序、メカニズムを考えてきたけど、自分が病気になってそれって違うんじゃないかなと。
考え方とか生き方とか運動とか…、そういうものを含めた「全体的なこと」に関わっていける方が魅力的だなと思って。
だから、自分の回想録も含めて、そういう内容のお話を、匿名でブログにまとめはじめたんです。
そうすると、全然知らない患者さんから「先生のブログを読んで勇気づけられた」というメッセージをいただいたり、読者の方々とやり取りしたりすることがあって。
考え方とか生き方とか運動とか…、そういうものを含めた「全体的なこと」に関わっていける方が魅力的だなと思って。
だから、自分の回想録も含めて、そういう内容のお話を、匿名でブログにまとめはじめたんです。
そうすると、全然知らない患者さんから「先生のブログを読んで勇気づけられた」というメッセージをいただいたり、読者の方々とやり取りしたりすることがあって。
それは嬉しい。
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伊藤先生
けっきょく僕たちが生業とする鍼やお灸というのは、1つの道具に過ぎないんですよね。
もちろんこだわることは良いんだけど。
でも根本は、患者だった僕は「鍼で治りたいですか? それとも鍼じゃなくても治る方法があれば、そちらでいいですか?」と聞かれたら、間違いなく「鍼じゃなくてもいいから治る方法」を選ぶわけですよ。
治る方法が鍼だったら鍼でいいわけで。
それは患者さんも同じはずなんです。
もちろんこだわることは良いんだけど。
でも根本は、患者だった僕は「鍼で治りたいですか? それとも鍼じゃなくても治る方法があれば、そちらでいいですか?」と聞かれたら、間違いなく「鍼じゃなくてもいいから治る方法」を選ぶわけですよ。
治る方法が鍼だったら鍼でいいわけで。
それは患者さんも同じはずなんです。
患者さんからしたら治ることが最優先ですものね。
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伊藤先生
そう。だから、このあたりは自分にとって第三章目ぐらいですかね。
入院生活を経て「鍼やお灸って単なる道具なんだから、そこに自分の存在意義を置くのはやめよう」という思いに至りました。
入院生活を経て「鍼やお灸って単なる道具なんだから、そこに自分の存在意義を置くのはやめよう」という思いに至りました。
第四章 戻ってきた日常
鍼灸の世界に入って東洋医学アレルギーになったことが原因で、機序の研究に邁進したのが第一章。
臨床研究も含めた鍼灸の科学化に没頭したのが第二章。
その研究に限界を感じ、自分が病気になったことで、東洋医学に対する価値観が変わったのが第三章…と。
これだけでもすごい変遷ですね。
臨床研究も含めた鍼灸の科学化に没頭したのが第二章。
その研究に限界を感じ、自分が病気になったことで、東洋医学に対する価値観が変わったのが第三章…と。
これだけでもすごい変遷ですね。
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伊藤先生
そう。そして、ここからが第四章、つまり復帰することになるんだけど…、そうやって価値観が変わっても、すぐに自分の社会的なスタンスは変えられないんですよ。
だって、周りの求めている伊藤和憲は、そういう伊藤和憲じゃないから。
だって、周りの求めている伊藤和憲は、そういう伊藤和憲じゃないから。
というのは?
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伊藤先生
まわりは科学者としての僕を求めているわけで。
患者さんは別としても、学校や業界は科学者としての僕を求めていたので。
患者さんは別としても、学校や業界は科学者としての僕を求めていたので。
先生は入院中に価値観が変わってカムバックしたのに…。
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伊藤先生
そうそう、患者さんにはそういうことを言ったら伝わるんだけど、世の中の鍼灸師に言っても伝わらないわけですよ。
やっぱり機序やエビデンスの取材や講演を求められてしまう。
喉元を過ぎればなんとやらで、そういう想いも残しながらも、また科学化の方に戻ってくるわけです。
そこで、今度は留学することになるんですよ、カナダに。
鋤柄先生が4年生の時ですね。
やっぱり機序やエビデンスの取材や講演を求められてしまう。
喉元を過ぎればなんとやらで、そういう想いも残しながらも、また科学化の方に戻ってくるわけです。
そこで、今度は留学することになるんですよ、カナダに。
鋤柄先生が4年生の時ですね。
たしかに、私が卒業の時はちょうどいらっしゃらなかったですもんね。
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伊藤先生
価値観が変わった自分に気付きながらも、「痛み」の世界の中で、有名な研究室で学んできました。
そこでの研究がね、研究者としてはすごく成長できたと思うし、勉強になったんだけども…。
そこでの研究がね、研究者としてはすごく成長できたと思うし、勉強になったんだけども…。
けど?
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伊藤先生
けっきょく、研究費を当てるための研究なんですよ。
研究費がなかったら、そこで人を雇って続けていくことはできないわけだから、しかたがないんだけど。
研究費がなかったら、そこで人を雇って続けていくことはできないわけだから、しかたがないんだけど。
お金は大切です。
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伊藤先生
社会が求めている、というとカッコイイけど…、ぶっちゃけて言えば「国や企業や製薬会社が求めている研究」に研究費がつくわけで。
まわりに求められる研究をするからお金がもらえるわけじゃないですか。
それって、たぶん製薬会社に置き換えると、「儲かるために薬を開発したい」みたいな意味になってしまうんですよ。
「それが本当に患者さんのためなのか?」と思うことがありまして。
まわりに求められる研究をするからお金がもらえるわけじゃないですか。
それって、たぶん製薬会社に置き換えると、「儲かるために薬を開発したい」みたいな意味になってしまうんですよ。
「それが本当に患者さんのためなのか?」と思うことがありまして。
難しいところですね。
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伊藤先生
そう思うと、研究の現場の最高峰を見たんだけど、なんだか違うなぁと感じて。
研究に対する限界を…必要なことはよくわかるんだけどね。
でも研究だけでは社会は変わらないなって思ったし、鍼灸をみんなが好きになってくれる世の中にはならないなぁと思いはじめたのがその留学が終わる頃で。
研究に対する限界を…必要なことはよくわかるんだけどね。
でも研究だけでは社会は変わらないなって思ったし、鍼灸をみんなが好きになってくれる世の中にはならないなぁと思いはじめたのがその留学が終わる頃で。
ちなみに留学していた時は先生の患者さんはどうされていたんですか?
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伊藤先生
留学の時もやっぱり患者さんが診れなくなるので、病気の時よりもさらにちゃんとしたブログを立ち上げることになったんです。
「筋肉マニアの筋肉マニアのための病気の話」みたいな。
毎日それを更新したら、すごくファンが増えて。
「筋肉マニアの筋肉マニアのための病気の話」みたいな。
毎日それを更新したら、すごくファンが増えて。
すごい話なんですが、先生って筋肉マニアだったんですか?
先生そんなにマッチョでしたっけ(笑)?
先生そんなにマッチョでしたっけ(笑)?
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伊藤先生
僕の専門がトリガーポイントだったから、筋肉が好きってことね(笑)。
鍛える方は好きじゃないけど、いじるほうは好きなので。
鍛える方は好きじゃないけど、いじるほうは好きなので。
そちらですか(笑)。
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伊藤先生
「筋肉は裏切らない」っていう名言もあるくらいで(笑)。
研究を通して筋肉からわかることを、患者さん向けに書いていたらすごく反響が多くてね。
それがのちのち『はじめてのトリガーポイント(医道の日本社)』という本の元になってもいくんだけども。
研究を通して筋肉からわかることを、患者さん向けに書いていたらすごく反響が多くてね。
それがのちのち『はじめてのトリガーポイント(医道の日本社)』という本の元になってもいくんだけども。
先生のベストセラーですよね。
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伊藤先生
そういうことをしていくと、患者さんもすごく喜んでくれてね。
そのブログの読者は難しい病気の患者さんが多いわけですよ。
そうすると、簡単に治らない病気の話がだんだん多くなってきて。
特に線維筋痛症という病気の治療には、その当時から力を入れていたから。
そのブログの読者は難しい病気の患者さんが多いわけですよ。
そうすると、簡単に治らない病気の話がだんだん多くなってきて。
特に線維筋痛症という病気の治療には、その当時から力を入れていたから。
「痛み」の研究をされていましたもんね。
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伊藤先生
その結果、帰ってきてからはそういう患者さんとも交流が増えていたし、診る機会も増えました。
実際に自分で臨床試験をやっていたから、エビデンスもあったんです。
でも、想定外のことが起こるようになって。
実際に自分で臨床試験をやっていたから、エビデンスもあったんです。
でも、想定外のことが起こるようになって。
想定外のことというのは?
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伊藤先生
たとえば、困っている患者さんが僕のブログを読んで、「自分の線維筋痛症も、もしかしたら治るかもしれない」と希望を持ったら、僕の患者さんは増えるじゃないですか。
難病の方にとっての大きな希望になると思います。
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伊藤先生
そうすると、悩ましいことに、治るとわかればわかるほど、臨床現場では治せないことが増えてきて。
言ってる意味ってわかりますかね?
言ってる意味ってわかりますかね?
それってどんな状態ですか?
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伊藤先生
まず「線維筋痛症は鍼をしたら良くなる」という結果が出て。
変な言い方なんだけど、はじめは線維筋痛症の人のなかでも、病気が初期の段階の人、つまり鍼で治しやすい人が集まってきていたと思うんだよね。
でも治るという評判が広がると、たとえば「京都にいい鍼の先生がいるらしいから、その鍼の先生の治療を受けに行く」という書き込みが、「2ちゃんねる」の掲示板の中に書かれ始めていたりして。
変な言い方なんだけど、はじめは線維筋痛症の人のなかでも、病気が初期の段階の人、つまり鍼で治しやすい人が集まってきていたと思うんだよね。
でも治るという評判が広がると、たとえば「京都にいい鍼の先生がいるらしいから、その鍼の先生の治療を受けに行く」という書き込みが、「2ちゃんねる」の掲示板の中に書かれ始めていたりして。
「2ちゃんねる」でも有名人になっていたんですね。
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伊藤先生
「京都は遠くて誰も行けないなら、私が行って試してきます」と、刺客のような患者さんが現れるようになるんですよ。
そうすると、難しい人がもっともっと増えてきて、治せたはずの鍼で治せなくなるんですよ。
同じようにやってるのに。
だから患者さんは増えるんだけど、自分にとっては苦しいわけですよね。
ずっと治せないわけですから。
そうすると、難しい人がもっともっと増えてきて、治せたはずの鍼で治せなくなるんですよ。
同じようにやってるのに。
だから患者さんは増えるんだけど、自分にとっては苦しいわけですよね。
ずっと治せないわけですから。
治せない状態がずっと続くのは、お互い苦しいです。
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伊藤先生
そんな時にね、さっきの自分の病気のことを思い返すわけですよ。
「もともとこの人は鍼をしてほしかったのかな? いや、治してほしいんだろうな」と。
じゃあ僕が治すとして、鍼だけで治せるのかな? と思った時にね。
自分が今までやってきた鍼の機序から考えると、鍼が効果を出す過程には「物質の移動」がみられるわけです。
ということは、鍼は物質を補っているわけじゃなくて、患者さんの身体にもともと存在する物質を移動させたり、引き出しているだけなんです。
つまり、患者さんがもともと持っていない物質はどこからも補えない。
今までは身体が正常に働いている前提の原理だったけども。
たとえば脳の仕組みとかを考えると、正常に脳が働かなくなってきた人たちをどうしていくか。そういうことも考えないといけない。
「もともとこの人は鍼をしてほしかったのかな? いや、治してほしいんだろうな」と。
じゃあ僕が治すとして、鍼だけで治せるのかな? と思った時にね。
自分が今までやってきた鍼の機序から考えると、鍼が効果を出す過程には「物質の移動」がみられるわけです。
ということは、鍼は物質を補っているわけじゃなくて、患者さんの身体にもともと存在する物質を移動させたり、引き出しているだけなんです。
つまり、患者さんがもともと持っていない物質はどこからも補えない。
今までは身体が正常に働いている前提の原理だったけども。
たとえば脳の仕組みとかを考えると、正常に脳が働かなくなってきた人たちをどうしていくか。そういうことも考えないといけない。
なるほど。
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伊藤先生
そうすると、患者さんを治すっていうのもおこがましくて、僕たちはまず「治すための準備」をしてあげないと治らないんじゃないかなと。
それまで治すことができたのは、患者さんが日頃ちゃんと養生していたから治っていただけで。
僕が治したわけでもなんでもなくて。
たまたま僕がそういう養生が足りている患者さんに鍼をして、たまたまその力を引き出していただけなんだと。
養生ができていない人たちは、鍼だけの力では治せないということに気付いたわけです。
それまで治すことができたのは、患者さんが日頃ちゃんと養生していたから治っていただけで。
僕が治したわけでもなんでもなくて。
たまたま僕がそういう養生が足りている患者さんに鍼をして、たまたまその力を引き出していただけなんだと。
養生ができていない人たちは、鍼だけの力では治せないということに気付いたわけです。
鍼の治療以外にも必要なことがあると…。
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伊藤先生
その時に僕は、鍼の限界を感じたわけではなくて。
そこは理論派だからね。だって機序は完璧にわかってるわけですよ。
まあちょっと失礼な言い方ですけど、その辺の人たちよりも、痛みの機序や鍼灸の治効機序を十分にわかっているつもり。
「ここにこれをしたら、こうなるはずだ」っていう確証はあるわけですよ。
でもそれが起こらないのは、僕のせいじゃなくて、相手の要素があるだろう…と。
じゃあ相手をどう導いていくのかという方向で考え始めることができたんです。
そこは理論派だからね。だって機序は完璧にわかってるわけですよ。
まあちょっと失礼な言い方ですけど、その辺の人たちよりも、痛みの機序や鍼灸の治効機序を十分にわかっているつもり。
「ここにこれをしたら、こうなるはずだ」っていう確証はあるわけですよ。
でもそれが起こらないのは、僕のせいじゃなくて、相手の要素があるだろう…と。
じゃあ相手をどう導いていくのかという方向で考え始めることができたんです。
なかなかそこまで言い切れる人はいないですよ。
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伊藤先生
そこにたどりつけたのは僕の師匠である川喜田先生のおかげで、すごく感謝したよね。
もし機序に自信がなかったら、自分の知識が足りないからもっと違う手技を勉強しようって、思ったんじゃないかな。
理論的に機序は正しいけど、求めている結果が出ないわけだから。
もし機序に自信がなかったら、自分の知識が足りないからもっと違う手技を勉強しようって、思ったんじゃないかな。
理論的に機序は正しいけど、求めている結果が出ないわけだから。
今までの研究が土台となったんですね。伊藤先生ならではの答えだと感じます。
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スキカラ
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