気の本質に迫れる、だから面白い/鍼灸師・薬剤師:戸ヶ崎 正男

日本鍼灸においては触診が重要視されますが、戸ヶ崎正男(とがさき まさお)先生ほど「触る」ことにこだわり、日々それを実践している臨床家は、稀有な存在といえるでしょう。

「脈だけで選穴することは難しい」という思いから、体表部の反応点をとにかく探る、触診重視の治療へとシフトして、自ら考案し作り上げたのが「ツボの四型分類」です。

鍼灸とどのように出会ったのか、その道のりとともに、手の作り方や後進の育成についてもお聞きしました。

戸ヶ崎 正男(とがさき まさお)先生

略歴
1952年 埼玉県生まれ
1976年 東京理科大学 薬学部 卒業
1979年 東洋鍼灸専門学校 鍼灸あんまマッサージ科 卒業
1982年 蓬(ほう)治療所 開所
1988~2013年 東洋鍼灸専門学校 講師
1989年~ 長江会多聞内神道の太極拳を学ぶ 現在、大師兄7段
2013年 日本伝統鍼灸学会 学術部長を経て副会長へ
2014年 東京衛生学園専門学校 臨床教育専攻科講師
2014年 和ら会 代表

 

薬学部での伝統医学との出会い

高校卒業してから薬学部に進まれたんですね。もともと東洋医学の世界に関心を持たれていたのですか。
ツルタ
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戸ヶ崎先生
戸ヶ崎先生
いえ、最初は全く。「ドラッグデザイン」という新薬を生み出す分野に進むつもりでした。
サークルもドラッグデザイン関連のものに入ろうとしたんですけど、そこの部長から「漢方は非科学的」と言われたことで、かえって漢方に興味を持ったんです。
逆に、関心を持ったんですね(笑)。
ツルタ
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戸ヶ崎先生
戸ヶ崎先生
小さい時から素直じゃなくて、目上の人間でも納得いかないと食ってかかっちゃうんですよ(笑)。
ちょうど大学入学時に出会ったのが、石原さんでした。この出会いがなければ、伝統医学との縁はなかったと思います。
日本伝統鍼灸学会の会長、石原 克己(いしはら かつみ)先生ですね。大学時代からのお付き合いとは驚きました。
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戸ヶ崎先生
戸ヶ崎先生
石原さんは1学年上の先輩です。漢方研究同好会の部長で、たまたま会に勧誘されたんですよ。
「漢方はなんか得体の知れない世界だな」と思いつつ、漢方研究同好会に入ったのが、伝統医学とかかわりを持った始まりです。
同好会で漢方薬の勉強をした。
ツルタ
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戸ヶ崎先生
戸ヶ崎先生
きちんと勉強を始めたのは、薬学の教授で漢方の研究もしていた長沢元夫(ながさわ もとお)先生の研究室に入ってからですね。
長沢先生に学問の基本的なやり方を教わってから、とにかく研究が面白くなって。あとは学問に哲学的な部分が大切ということも教わりました。
戸ヶ崎先生は臨床重視のイメージがあるので、研究にハマっていたのは意外です。
ツルタ
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戸ヶ崎先生
戸ヶ崎先生
研究室には2年間いましたね。でも、やっぱり東洋医学は実践の学だから、研究だけしていても仕方がないと思って、それから実際を学べるところを探しました。
運の良いことに、婦人科の医師で、東洋医学に造詣の深い先生に巡り合うことができたんです。それが当時の東洋鍼灸専門学校の校長もしていた石野 信安(いしの のぶやす)先生です。
鍼灸との接点は、こうして生まれたんですね。
ツルタ
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東洋医学しかないと確信した

戸ヶ崎先生
戸ヶ崎先生
石野先生の医院は、漢方薬の使い方や鍼灸治療の実際を学べる理想的な環境でした。はじめは漢方のほうに興味があったのですが、徐々に鍼灸治療の不思議さに魅せられるようになって、修行を始めた翌年に鍼灸学校の夜間部に入ったんですよ。
鍼灸学校はいかがでした。
ツルタ
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戸ヶ崎先生
戸ヶ崎先生
見事に裏切られました。
「なぜ鍼は効くのか」ということが知りたくて入学したのに、教えてもらえないまま卒業を迎えたわけですから。
なるほど。ちなみに昼間は何をされていたんですか。
ツルタ
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戸ヶ崎先生
戸ヶ崎先生
鍼灸学校に行くための資金が必要だったのと、まだまだ漢方の勉強をしたかったのもあり、大学の先生に紹介してもらった中国から漢方薬を輸入する会社で働いていました。
また意外な選択ですね。
ツルタ
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戸ヶ崎先生
戸ヶ崎先生
卒業後は、この会社の関連で中医学と西洋医学を合わせた薬局に3年くらい勤めましたが、やはり東洋医学しかないと確信して開業の道を選びました。
なにか決め手はありましたか。
ツルタ
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戸ヶ崎先生
戸ヶ崎先生
竹山 晋一朗(たけやま しんいちろう)の『漢方医術復興の理論』(‎績文堂出版)を読んで、最終的な決断をしました。
伝統医学の社会的地位を向上させたい、もっと伝統医学を今の社会に広げていきたい、というのが臨床家になった理由の一つです。
壮大なテーマに目覚めましたね。
ツルタ
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戸ヶ崎先生
戸ヶ崎先生
いまだに取り組んでいますが、先が遠くて、お酒で気を紛らわしてばかりいます(笑)。

脈で選穴するのは無理がある

開業したときは、どのようなスタイルで治療されていましたか。
ツルタ
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戸ヶ崎先生
戸ヶ崎先生
石野先生が経絡治療をやっていたので、一生懸命真似をして、形を作ろうとやっていました。
経絡治療がスタートなんですね。
ツルタ
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戸ヶ崎先生
戸ヶ崎先生
そうです。初めのうちは分からないなりにこのシステムを身につけるために一生懸命やりました。しかし、だんだん納得がいかなくなりました。
実際にやってみたものの、うまくいかなかった。
ツルタ
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戸ヶ崎先生
戸ヶ崎先生
脈診に基づいて五行理論で選穴する経絡治療のシステムはすごく魅力的でした。ところが、脈診は「治療に必要なツボを選ぶ手段」になっていない。「経絡治療は、脈診と選穴理論を無理に繋ぎ合わせてしまったのではないか」と思えてしまったんですね。
つまり、脈で選穴するのは無理がある。そのスタンスは、今でも変わりません。
脈診だけですべて決めるようなやり方に対してダメと思ったと。そうすると、新たな選穴の手段が必要ですね。
ツルタ
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戸ヶ崎先生
戸ヶ崎先生
そんなとき、一冊の本と出合ったんですよ。1986年に発刊された『医道の日本』500号です。
記念特集の「圧痛点による診断と治療及び指頭感覚」を読んで、鍼灸に対する見方が180度変わりましたね。

体表部をひたすら触る旅に出る

どういった内容がそこまでの衝撃を。
ツルタ
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戸ヶ崎先生
戸ヶ崎先生
そこに「反応がないツボは効かないよ」という臨床家の本音が出ていたんです。
科学派、古典派、どちらの立場でもない人が異口同音に感覚を重視してツボの異常状態を的確に捉えることを提唱していました。
多くの経絡治療家も、選穴した後に「その治療穴に反応があるか」うかがっていたわけですね。
ツルタ
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戸ヶ崎先生
戸ヶ崎先生
反応がないツボは効かないのだったら、体表観察をして異常なツボを捉えて、適切に治療をすればよい。そうすれば「鍼灸がなぜ効くのか」にもつながると考えました。
なるほど。
ツルタ
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戸ヶ崎先生
戸ヶ崎先生
そこから反応をひたすら探るようになりました。もちろん、500号を読む以前も、ある程度ツボを探すような意識はあったんですよ。
ただ、この時から反応のないところは使わないで、反応のあるところのみを使うやり方にガラッと変えたんです。
ところで、ツボの反応や異常性というのは…。
ツルタ
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戸ヶ崎先生
戸ヶ崎先生
ツボは病的状態になると体表部にさまざまな反応として表現されます。これは生命力である気の変化過程です。
それは、視覚や触覚によって捉えられ、また圧痛などとして患者がなんらかの自覚を感じられるということです。
ツボの反応を重視するようになったからといって、経絡治療を捨てたわけではないですよね。
ツルタ
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戸ヶ崎先生
戸ヶ崎先生
ツボの反応を重視して、標治法では体表をよく診て、異常反応を示すツボに治療を行うようになってから、治療効果があがったんです。
さらには本治法も、反応を捉えて行う方が効果的であることがわかりました。
そうしてたどり着いたのが、「ツボの四型分類」です。

NEXT:経絡治療と太極療法をまとめあげた

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