これからの「鍼灸」の話をしよう(前編)/鍼灸師:伊藤 和憲

第六章 鍼灸師 伊藤和憲の夢

鍼灸業界の中で、特に伊藤先生は理想のキャリアパスを歩まれているように見えていたんですが、こうしてお話を聞くと苦難の連続というか執念のようなものを感じます。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
そうだね…、変な話だけど、 明治鍼灸大学(現 明治国際医療大学)に入った自分を否定したくないから、入学後、専門を見つけてがんばったし、病気になった自分を否定したくないからブログや読書をがんばったし、留学した自分を否定したくないから養生コミュニティづくりをがんばったし…。
でもそういうことですよ。
病気になったことで僕の人生が変わるわけではなくて、病気になったことをどう捉えるかが、自分の人生を決めるから。
「病気になって良かったと思えるようにがんばろう」と思ったし。
ポジティブなのか、ネガティブなのか…。独特の感性で…。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
みんなは僕のことをエリート街道を歩んだ、すごく理想どおりに来た人間だって思うかもしれないけど、僕の中では全然理想どおりじゃないんですよ。
僕はただの努力派なので…、だから全然頭は良くないんです。
努力したから今の状況があるわけ。
努力派なのは間違いないと思いますが、状況を好転させようとする考え方がユニークだと思います。
先生の考え方がユニークなのは、もともとだったんですか?
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
ユニークっていうかねたぶん…、 臆病者なんですよ。
だから考え方を変えられない。すごい真面目で臆病者だからね。
2浪して、挫折して…、でもそのままあきらめたら、自分を否定することになってしまう。
周りには医者になりたい、小児科医になりたいって言ってるのに、できなかったからやめる! ではね…、それでいいのかってね。
医療の道を歩むと決めた時に、自分はやっぱり「患者のため」という十字架を背負っちゃったわけですよ。
で、 この十字架から逃れられないというか。
目的に向かって、常に自分を最適化していった結果の今なんですね。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
だから僕は浪人したこともよかったと思うのよ。
なのでもう1回生まれ変われるなら浪人をして、脳梗塞になりたいのよ。
馬鹿ですよね(笑)。
ストイックすぎます(笑)。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
でもそうじゃなかったら気付かなかったし、必要なステップだと思ってるから。
そのおかげで今があるしね。
僕の好きな言葉に「失敗したかどうかはこの時点で決まるわけじゃない」というのがあるのよ。
失敗したと思ったその後に、その失敗をどう受け止めるかで本当の結果が決まるという意味ね。
なんで好きと言うと、医学部に落ちた時にみんなに不幸がられたのよ。
すごい勉強したのに合格という結果が出なかったから。
でも、今の僕を見て「医学部に受からなくて残念だったね」っていう人はひとりもいないのよ。
逆に、受かってたら「医者というブランドとお金が手に入るかも…もしかしたら看護師さんとかにモテたりして…」という邪な思いが、生まれてたかもしれない。
絶対にないとは言えないから(笑)。
で、医者にはなったけど、調子に乗っちゃって、上から目線で偉そうにして、患者さんの気持ちを考えずに患者さんを怒らせて、今ごろ苦しんでいるかも知れないじゃない(笑)。
(笑)(笑)(笑)
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
けっきょく、受かったか受からなかったかは、どうでもいいわけで。
「その後、現状をどう捉えるか」だと思うと、今をどうがんばるかしかない。
そして「今をどうがんばるかしかない」と思ってると、あまり怖いことはないかなと思うよ。
ちなみに先生の将来の夢は?
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
そうですね…、将来の僕の夢は。
医者と喧嘩する存在でもなく、 医者のかわりに難病を治す存在でもなく、医者に「鍼灸院に行って、まず治る体になっておいで」と言われる鍼灸師の環境を作るのが、本当の答えなんじゃないかと思ってるんですよ。
病気の中で言えば。
新しい連携の形ですね。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
今だったら病院でも薬でも治らないから、「じゃあまぁしょうがないし、鍼灸に行っといで」みたいな感じじゃないですか。
そうじゃなくって「鍼灸の先生は、身体を整える専門家だよ。だからあそこ行っておいで。で、 鍼灸の先生にいろんなことを教えてもらっておいで。それから病院に来てくれれば、薬がよく効くよ」というふうになってくれるのが一番理想かな。
そこが一番コラボレーションするし。
病気になることは人にとって不幸なことだから、そうならないための養生を、もし病気になっても治療の効果が出やすいヒントを鍼灸師が教えてあげられたら、鍼灸はやっぱり幸せを生むじゃないですか。
だから最後の答えは、患者さんが治るための、または健康になるためのコミュニティが必要で、コミュニティは生きがいのために必要で、健康のゴールは幸せなんですよ。
幸せがないと健康には意味がないので。
病気になったけど、いろんなことがわかって幸せだったなと僕は感じています。
そんな未来を目指したいです。
スキカラ
スキカラ
伊藤先生
伊藤先生
「幸せをプロデュースする鍼灸師」を増やすというのがあるべき姿かなって思っています。
残った時間は短いから。あ、僕が死ぬとかそういうことじゃなくてね(笑)。
万博まで時間がないので。
でも鍼灸師が本気になったら万博だって夢じゃないと思うんだよね。
ただ鍼灸師はいろんな人たちがいっぱいいるから、なかなかひとつになるのは難しい。
でも、それぞれの考え方や概念を否定するわけじゃないから。プラットフォームだからさ。
枠を作るだけじゃないですか。
東洋医学がいいとか、西洋医学がいいとか、そういうことを言っているんじゃなくて。
枠を作って、その中で必要なところに必要なものを置ければいい。
鍼灸師が生きる枠が、今までは病気という狭い枠しかなかったから。
そうじゃない枠に出来たらいいなって。
ちょっと宣伝をさせてもらうと、明治国際医療大学は今そういう方向に向かってるんですよ。
そういうことを学べる大学に変えたいなと思って、学部長として、教員の先生方と一緒にがんばっています。
…すいません、なんかひとりでしゃべっちゃったね。
いやぁ、先生、良いことしか言わないから記事にまとめるのが大変です(笑)。
スキカラ
スキカラ

>>> 『これからの「鍼灸」の話をしよう(後編)』につづく

【記事担当】
取材・文=スキカラ
取材・撮影・編集=さまんさ

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