教員養成科という選択肢があることも知ってほしい/鍼灸師:中村 真通

「中村君、教員にならないの?」と誘われて

東京医療専門学校では、どんなふうに過ごされていたんですか。
ゆうすけ
ゆうすけ
中村先生
中村先生
僕はⅠ部本科に入ったので、授業は午前中だけでした。現場の経験を積みたいと思ったので、午後は自宅近くのコナミスポーツ、当時のエグザス治療院でアルバイトしていました。12時40分に授業が終わって、午後2時からだいたい夜9時まで週4日ぐらいですね。あとは土日どちらかっていう形で勤務していました。
教員養成科への進学はいつ頃決めたのでしょうか。
ゆうすけ
ゆうすけ
中村先生
中村先生
3年生になった時に教員養成科の説明会がありました。そこで「教員養成科は、教員になるだけじゃないですよ」、「臨床力をつけるところでもあります」って。ちょうど僕が30代になった頃だったかな。それを聞いて、あと2年間は臨床力を磨こうと思って進学することにしたのです。
実際に進学してみていかがでしたか。
ゆうすけ
ゆうすけ
中村先生
中村先生
本当にいい科でした。2年生の時には、開業できるなって思えるくらいまでになったと思います。2年生のゴールデンウィークの時に準備して、その後、実際に知り合いと開業に至りました。
早速開業されたんですね。教員になる道は考えなかったんですか。
ゆうすけ
ゆうすけ
中村先生
中村先生
実は自分の同期は、教員になった人が多かったです。ちょうど規制緩和があって学校が乱立し始めた頃で、当時は50校ぐらいから求人が来ていました。
その時に、中村先生も教員になろうと思われたんですか。
ゆうすけ
ゆうすけ
中村先生
中村先生
自分はどうしようかなと思っていた時に、当時教員養成科の専任教員だった石川慎太郎先生が「中村君、教員にならないの?」って声をかけてくれたのです。ちょうど先生が生理学の研究で大学に移られるような時期で、後任を探されていたのだと思います。
見込まれたのかもしれないですね。
ゆうすけ
ゆうすけ
中村先生
中村先生
本当にありがたいことです。かつて父の助言を聞かずに自分の想いで就職した保険会社で、あまりいい方向に進まなかったこともあって。自分のやりたいことより、求められている方向に進もうと思い、母校の採用試験を受けたら合格できました。

人材育成における「3つの指針」

専任教員になってからは、主にどんな活動をされてきたんですか。
ゆうすけ
ゆうすけ
中村先生
中村先生
教員養成科では卒業研究を指導しなくてはいけません。そのために夜間の社会人大学院に通い、カウンセリングや研究手法を学びました。その後、25期生から37期生まで200演題近くの卒業研究を担当しました。
すごい数ですね。
ゆうすけ
ゆうすけ
中村先生
中村先生
25期の頃に教員養成科の恩師、村居眞琴先生が校長になられて。それで現校長の齊藤秀樹先生が科長、僕が科長補佐、八亀真由美先生が担任という体制になりました。その後、29期生から学科長を務めることになったのです。
学科長の頃に何か変化はあったんでしょうか。
ゆうすけ
ゆうすけ
中村先生
中村先生
鍼灸科・鍼灸マッサージ科同様、教員養成科もカリキュラム改正があって、新カリキュラムの作成に携わりました。
どんなカリキュラムを作りあげていったのか気になります。
ゆうすけ
ゆうすけ
中村先生
中村先生
まず1年目は臨床専攻課程で、実技をたくさん練習して技術を磨いて、どんな症例にも対応できるような臨床力を身に付ける。2年目は基礎医学とか臨床医学、あるいは教育と研究のスキルアップをして伝える力を身に付ける。そういう課程の編成になって、そのカリキュラムを作っていったという形です。
卒業生は教員になるパターンと臨床に進むパターンで半々くらいとのことでしたが、具体的に教えてください。
ゆうすけ
ゆうすけ
中村先生
中村先生
私はこれまで養成科で395名に関わらせていただきました。進路は専任教員が40%、非常勤講師兼開業や臨床勤務が12%、臨床勤務が30%、開業が16%っていう感じです。若干ですが、研究に興味を持ち大学院に進んだり、柔整に進学したり、中には学生同士で結婚する人もいました。
とても多様化しているんですね。
ゆうすけ
ゆうすけ
中村先生
中村先生
ですので、カリキュラムを作るときも、どんな人材を育成したいか3つの方針を立てました。1つ目は「開業しても自信を持って治療ができる鍼灸師」です。現代鍼灸といわれる西洋医学系の鍼灸、経絡治療といういわゆる古典系の鍼灸、東洋医学臨床論でベースとなっている中医臨床、この3つの治療スタイルは体系的に身につけられるようにしたいと考えました。
代表的な3つの鍼灸治療を短期間で学べるのは教員養成科だけかもしれませんね。
ゆうすけ
ゆうすけ
中村先生
中村先生
2つ目は「チーム医療ができること」を重視しました。勤務鍼灸師を想定して、多様性と協調性を身に付けて医療連携ができるようにしたいと考えたのです。3つ目は「鍼灸教員として、学校方針に沿って柔軟に対応できること」です。要するに個人の能力と、組織力をどうやったら身に付けられるのか考えていったのですね。
すごくしっかりしたビジョンがあることが伝わってきます。開業ではない道を選んだ先生も多いんですよね。
ゆうすけ
ゆうすけ
中村先生
中村先生
トレーナー、美容、訪問、婦人科、緩和ケア、ペインクリニックや大学病院で鍼灸師として医療に貢献していたり、開業しながら非常勤講師をしている卒業生もいます。専任教員を務めた後に開業したりとか、開業した後に専任教員をしたりとか、いろんな方がいますね。

10年かかる修業を2年に凝縮する

中村先生が、教育を行う上で大切にしているのはどういったことでしょうか。
ツルタ
ツルタ
中村先生
中村先生
時間ですね。だいたい僕の時代は一人前になるまで10年かかるって言われていたんですよ。でも10年間も修業にあてていたら職業として成立しづらくなってしまう。なんとか短時間で効率よく育てて、社会に貢献できる鍼灸師を養うことを目標にカリキュラムを組んできました。
そのためにどんな工夫をされてきたんですか。
ツルタ
ツルタ
中村先生
中村先生
治療スタイルの共通点、あるいは相違点を見出しながらカリキュラムと教材を作っていくことですね。例えば、現代鍼灸の先生方の考えや臨床を理解するために、埼玉医科大学の東洋医学科や、経絡治療は日本伝統医学研修センター、中医臨床では当時の牧田中医クリニックで自分自身、修業させていただきました。その後、教員養成科のオリジナル教材として、現代、経絡、中医の症候別の治療ガイドを講師の先生方と協力して作成しました。
すごい。先生自身が修業しながらって聞くと説得力が増す気がします。臨床力を身につけるためには、実践も大切ですよね。
ツルタ
ツルタ
中村先生
中村先生
その通りです。教員養成科の魅力はなんといっても、習得したことを実践する臨床教育だと思っています。卒前ではシミュレーション教育しかできないし、患者さんに堂々と治療ってできないですよね。でも卒後だと免許を持っているので、実践でリアルな経験を積ませることによって、臨床力を身に付けることができるのです。附属施術所には25ベッドあって、各自にベッドが用意されています。だいたい40名から50名の患者さんに来院していただいていたので、1日2人くらいの施術をする感じですね。
勉強する方法はたくさんあるけど、真に臨床力を上げようと思ったら患者さんの存在が不可欠だと思います。教育の場で臨床をとことん実践できるのは、入学時に免許をすでに持っている教員養成ならではの強みですね。
ツルタ
ツルタ
中村先生
中村先生
治療の主体は養成科の学生ですが、バックにその流派のベテランの先生方がついているという安心感があります。迷った時にはサポートするような体制を築いています。
ほかにも何か取り組みはありますか。
ツルタ
ツルタ
中村先生
中村先生
大学と提携して解剖の見学実習や生理学実習、顕微鏡で組織や病理標本を実際に見る機会も設けるようにしています。教員になったら、解剖や生理学の基礎医学を担当することもありますからね。


▲教員養成科で講義をする中村先生(提供:中村先生)

求められている方向に進むことも大切

臨床向きの学生と教員向けの学生に違いはあるのでしょうか。
タキザワ
タキザワ
中村先生
中村先生
何年も卒業生の動向をみていると、向き不向きが分かるようになってきました。
教員になりたいという希望通りにいかないケースもありそうですね。
タキザワ
タキザワ
中村先生
中村先生
養成科は今年41期生を迎えます。
僕は22期生だったのですけど、そこから3、4年は教員バブルでした。でもある程度、教員が充足してくると、教員になりたくてもなれなかった人もいました。僕が何年も携わって感じたのは「縁とタイミングが大切」ということです。希望通りにいかなくてもがっかりすることなく資格を持っていれば、いずれタイミングが来ることもあるので、くじけずに頑張ってほしいと伝えています。
励まされるお話ですね。やはり先生自身も実感してこられたのではないでしょうか。
タキザワ
タキザワ
中村先生
中村先生
そうですね。僕自身、自分がやりたいことより、求められたことを優先したから今があると思っています。評価って他人がするものなので、周りが認めてくれていることをやった方が、仕事ってやっぱり広がっていくと思うんです。

「あの先生、変えてほしい」でハッとする

教員養成科では、人間性の部分について、どのような指導をしているんですか。
タキザワ
タキザワ
中村先生
中村先生
どこで人間性がわかるかというと、臨床実習ですね。実習が長期に渡っていくと、誰が協力してくれるか、あるいはしてくれないか良く分かるのです。学生同士で組織を上手く運営するためにはどうしたら良いかとか、周囲との連携についても学ぶことができると思っています。
臨床実習は、自分を振り返る機会にもなりそうですね。
タキザワ
タキザワ
中村先生
中村先生
その通りです。そういう場を提供してあげると、「自分はこういうところがいけなかった」とか「あの人のこういうところを見習おう」と気付くことができると思います。時には患者さんが伝えてくれることもあるのですね。
実際に、担当を変えて欲しいと言われることもありましたから。学生は現代鍼灸、経絡治療、中医臨床とメインでやりたい治療スタイルが分かれこともあるのですけど、本治だけで何とかしようとしていた学生がいました。
患者さんのニーズと合わないときがあると。
タキザワ
タキザワ
中村先生
中村先生
例えば耳鳴りの患者さんに対して、耳の辺りは全く触らないで下肢だけ施術をしてちっとも治らない。そうすると「あの先生、変えて欲しい」と言われて、そこでハッと気付くんです。自分が良かれと思ってやろうとしていたことが、求められていないって。
先ほどの求められる話と通じてきそうなところですよね。自分のやりたいことよりも誰かに求められることが大切っていう。
タキザワ
タキザワ
中村先生
中村先生
やりたいことと求められることがマッチングしていないと、うまく進まないと思うのです。それと学生は有名な臨床家から学びたいと思うんですけど、知られてなくても指導がうまい先生もいるのですよ。良い指導者との出会いやマッチングも重要になってきます。

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