鍼灸師よ、誇りを失うな【特別講義編】/鍼灸師:芦野 純夫

医業の一翼を担うプライド

治療行為というのは、やはり責任がありますね。
ツルタ
ツルタ
芦野先生
芦野先生
「施術」とは、医師以外がおこなう治療行為を指す言葉ですが、法律で医師以外の治療行為はあはき柔整に限定されているため、法律上、免許行為だけが「施術」となり、それら免許者を一括して「施術者」、その業を開業して行う場所を「施術所」と総称しています。
「施術」には特別な意味があるんですね。「施術者」として誇りを持っていきたいと思いました。
ツルタ
ツルタ
芦野先生
芦野先生
今、病院などは患者をお客様扱いで患者様と呼び、医療のサービス業を展開していますよね。これは欧米のメディカルサービスという言葉の意味をはき違えているんです。
メディカルサービスとは、本来どういう意味なんですか。
ツルタ
ツルタ
芦野先生
芦野先生
まずサービスというのは、奴隷の「スレーブ(slave)」と語源が同じ言葉です。では、メディカルサービスとは、誰のしもべで、誰に奉仕するのか。このサービスの相手は、患者ではなく神様なんです。
神様のしもべ…。どうして医療に神が出てくるのでしょうか。
ツルタ
ツルタ
芦野先生
芦野先生
伝統的に中世の大学というのは、神学部、法学部、医学部、それから哲学部の4学部からなります。まずみんな哲学部で一般教養の勉強をしてから、プロフェッションを養成する神学部、法学部、医学部に進みます。現代でも、例えばハーバード大学はリベラルアーツの4年制カレッジの上に、大学院と同列の神学校やロースクール、医学校といったプロフェッショナルスクールがあります。
プロフェッションとは神官、法曹、医師のことで、この三つの職業は特別なんです。本来なら「神様」がおこなうことを代わりにおこなう職業だからです。
うーん。まだ神と医療がつながりません。
ツルタ
ツルタ
芦野先生
芦野先生
例えば裁判官だと、人が人を裁くという本来はできないことを「神」の代理としておこなっているということです。
病気を治すのも、本来は神の技であって、それを医師は神の忠実なしもべとして代行していると考えられます。背後で神様が見ているから、一生懸命に患者にあたるけど、それは患者のしもべではありません。だから患者様と呼びサービス業を展開するのは、メディカルサービスの意味をはき違えているんです。
病気を治すのは神の技であって、医師ではない。
ツルタ
ツルタ
芦野先生
芦野先生
キリスト教以前のヒポクラテスも、病気は医師が治すのではなく、フィジス(physis)という人体に宿る摩訶不思議な力が治す、医師は機能的な変調をととのえフィジスが十分発揚されるようにお膳立てをするのが努めだと。だから、医師はフィジスのしもべだと言いました。それで英語で医師の免許名をフィジシャン、つまりフィジスを引きだす者というのです。
サービス業として患者様につくすのではなく、医業として患者さんの自然治癒力につくせたら…。
ツルタ
ツルタ
芦野先生
芦野先生
われわれも医業というプロフェッションの一部なんです。その観点に立つと鍼灸院はお店ではなく施術所です。だから「いらっしゃいませ、ありがとうございました」じゃないんですよ。様付けもよくないです。医療機関や施術所で料金や広告表示が禁止されているのもプロフェッションだからといえます。
「あはきは医業の一部である」って重い責任が伴いますね。正直、プレッシャーも感じます。
ツルタ
ツルタ
芦野先生
芦野先生
いいですか。医師以外の治療行為である「施術」が許されたのは、このあはき、それから柔整だけです。自らの法的立場が本当はなんだったのかを自覚して、医業の一翼を担っているプライドを持って業に臨んでもらいたい。それが私にとってなによりの願いです。

参考文献
『提言 鍼灸師の地位向上をめざして』(社団法人 日本鍼灸師会)
『あはき法解釈の昏迷を解きほぐす 鍼灸は医業か医業類似行為か』(公益社団法人 東京都はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧師会)
『あん摩、はり、きゆう、柔道整復等 営業法の解説』(第一書林)(復刻発刊 社団法人日本鍼灸師会)
『あん摩、はり、きゆう、柔道整復等 営業法の解説 現代語版』(日本医療福祉新聞社)
『「鍼灸、あん摩、マッサージ・指圧」は、医業類似行為ではありません。』(一般社団法人 全国鍼灸マッサージ協会)

取材協力:横浜医療専門学校

【記事担当】
取材 = ゆうすけタキザワツルタ
文・撮影 = ツルタ

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