ぼくが松田 博公(まつだ ひろきみ)先生の『鍼灸の挑戦』を読んだのは、鍼灸専門学校の学生の時でした。
共同通信社の記者として松田先生が、実際に日本各地の鍼灸師を訪ねて、人柄や生き方を紹介したこの1冊。
鍼灸をテーマにした本として異例とも言える、出版後5年で9刷・39,000部のセールスを記録しました。
一般の方には鍼灸の認知度を高め、学生だったぼくには、鍼灸の可能性と鍼灸師という仕事のすばらしさを教えてくれました。
その後も「日本鍼灸とは」という問いを持ち続け、一般の鍼灸師とは異なる「独特のまなざし」から、鍼灸界をみつめてきた方です。
今回、松田先生のインタビューは、前編と後編に分かれています。
前編は、ジャーナリスト・松田先生の生い立ちや『鍼灸の挑戦』が書かれるまでの経緯、日本鍼灸の歴史的な部分を。
後編は、黄帝内経研究家に転身した松田先生が、東洋思想と鍼灸の起源である宇宙とは何か、を伝えてくださっています。
松田先生のお話は、少し難しいかもしれません。
正直、ぼくにもわからない部分があります。
だけど鍼灸師を続けているうちに、いつかわかる日がやって来るんじゃないか。
そんな願望を持ちつつ…。
ぼくにとって、初めての「人に読んでもらうこと」を意識して書いた文章です。
松田 博公(まつだ ひろきみ)先生
1945年神戸市近郊に生まれる
国際基督教大学卒
東洋鍼灸専門学校卒
元共同通信社 編集委員
元東洋鍼灸専門学校 副校長
明治国際医療大学大学院修士課程(通信制、伝統鍼灸学専攻)修了
1999年から5年間、約80人の鍼灸師ルポ全100回が共同通信社加盟新聞社に配信される(のちの『鍼灸の挑戦』)
『鍼灸の挑戦』を出版(岩波新書/第19回 間中賞受賞)
『日本鍼灸へのまなざし』を出版(ヒューマンワールド/日本伝統鍼灸学会創立40周年記念賞受賞)
対談集『日本鍼灸を求めて Ⅰ、Ⅱ』(緑書房)など
2012年、鍼灸の思想を学ぶ会(松塾)を開講
『鍼灸の挑戦』と『日本鍼灸へのまなざし』
その際、毎日新聞が「時の人」のコーナーで取材してくださって。
それが長大な文章でね。こういう理解力を持った若い人がいるんだと、とても励まされた。
お会いしたいと思いつつ、そのままになっているけど、インパクトを感じてくれた人はいたみたい。
それにしても『鍼灸の挑戦』は読んで、ワクワクしました。
ぼくも本に登場するようなステキな鍼灸師になれたらって。
若手たちはファジーに交流しているよね。
その前の10年間くらいの出来事について評論しているんだよね。
たとえば現代中医学の覇権主義やWHOの消毒法、EBMの導入、鍼灸学校バブル、日本鍼灸とは何かへの関心の高まりなど、他にもたくさん……。
いまも解決されていないことばっかりね。
およそ問題がデカ過ぎて、簡単に解決しないということでもある。
これからの日本鍼灸はどうなりますかね?
まぁ、その速度はのろいし、限界はあるけど、前に進んでいることは事実だと思う。
欧米はじめ、世界中で代替医療として認知されていることの影響もあるだろうし。
これは「結婚」と同じでさ。
ホットな間はうまくいくけど、「やっぱり違うかも?」とひとたび疑問を感じたら、あとは冷める一方。
「最初から一緒にならなければよかった…」なんて(笑)。
だから、昔は見合い結婚の方がうまくいく、なんて言われていた。
見合い結婚の場合は相手を知らないってことが前提なの。
だから、結婚してから相手を知ろうと努力する夫婦はうまくいくわけよ。
その「違い」を、いかにまっすぐに見つめるかが大切だと思う。
見つめたうえで、東西の医学がどう一緒にやっていくのかを考える。
『日本鍼灸へのまなざし』は、それを考えるための材料になるんじゃないかな。
ピークは1997年に両学会の「合同大会」がおこなわれた頃で、当時はすぐにでも合体に進むんじゃないかと言われていたし、『鍼灸の挑戦』で西條 一止(にしじょう かずし)先生と故・井上 雅文(いのうえ まさふみ)先生の共同研究に触れたように、実際に研究の交流もなされていた。
それよりも、今は鍼灸業界に細かな動きというか、いろんな技術的話題があるよね。
あるいは、これまでの鍼灸の枠組みにとらわれずに、鍼灸師それぞれが独自の分野で動いている。
小さな流れがたくさん生まれて、そこで若手が活躍している。すごく華やかに見える。
関西から発信している「鍼灸フェスタ OSAKA」とかさ。
ちなみにこういう若手の動きをどう感じますか?
現場の熱気とインターネットが連動し、地域や年齢、経歴を超えたネットワークが広がっていく。
それって、鍼灸以外の分野では当然におこなわれていることだよね。
鍼灸業界だって、どんどんネットの連動が重要になる。
学閥や、伝統、会派を超えたつながりのようなものが見えるよね。
それから鍼灸と自分の強みを掛け合わせて、新たな活躍の場を作ろうとする若手もいます。
だから学会はなんというか…、オジンの集まりになってきてるのかなって(笑)。
【参考文献】
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