未病の<見える化>で鍼灸師の役割が変わる/鍼灸師:戸村 多郎

「未病スコア®」の確立・普及へ

先生が開発された「未病スコア®」は、簡単にいうと15項目の客観的な未病のチェック表ということなのでしょうか。
ゆうすけ
ゆうすけ
戸村先生
戸村先生
そうですね。現在のスコアでは「肝・心・脾・肺・腎」の5つの項目で、それぞれ3つずつ質問を設けています。
どんな質問ですか。
ゆうすけ
ゆうすけ
戸村先生
戸村先生
例えば肝だったら「首すじ(肩)がこる」、心だったら「心配事が多い」などの質問があります。それに対して「ぜんぜんない・まれに・ときどき・ほとんどいつも・いつも」のどれかを回答してもらって、それぞれの回答結果の点数を足してスコアを出すようなものになっています。
なるほど。どういうきっかけで開発されたのか知りたいです。
ツルタ
ツルタ
戸村先生
戸村先生
学術大会で発表する学生を指導しているときに、「こういうツボを使って、こんな治療をやったら、こう効いたっていうのをやりたい」という話が出てきました。それで何か基準があった方がよいだろうと思い、「五臓スコア®」を作ったんです。
最初は「五臓スコア®」だったんですね。確かに未病についての診察基準って、あまり聞いたことがありませんよね。
ツルタ
ツルタ
戸村先生
戸村先生
僕自身も学生を指導しているうちに「これ、すごく大事やな」って気付いたんです。研究をまとめて海外の雑誌に投稿したら一発で通って、学位も取らせていただきました。そこから東洋医学の評価研究をしてもう10数年です。
それだけ斬新な発表だったということですね。その後は具体的にどんな研究をされたんですか。
ツルタ
ツルタ
戸村先生
戸村先生
ターニングポイントになった研究は、健康な中高年者を五臓スコアが「悪かった人」「良かった人」に分けて、1年後の変化を血液検査の結果とかを基に確認しました。そうすると1年前にスコアが悪い人は、1年後健康の範疇ではあるけど検査の値が悪いことがわかったんです。
未病を放置していたら、ひどくなったわけですか。
ツルタ
ツルタ
戸村先生
戸村先生
その可能性があります。「これはスコアで予測できたよね」っていうことで、そこから「未病スコア」っていう名前にしたんですね。「五臓スコア」は研究用の名前で「未病スコア」は一般の人たち向けの名前ですね。どちらも自分で申請して商標登録しました。
健康だけど未病スコアの結果が悪いと、検査値が悪くなりやすい。
ゆうすけ
ゆうすけ
戸村先生
戸村先生
ええ、たった1年でこれですから、早く生活習慣の改善をしないとって。東洋医学があつかう症状は1個だと不定愁訴って西洋医学でいわれますが、スコアとして2~3個組み合わせることで生活習慣の改善に役立つのではとも考えています。
「未病スコア」は鍼灸師向けというよりは、もうちょっと広い視野ですかね。
ゆうすけ
ゆうすけ
戸村先生
戸村先生
鍼灸師の存在意義は残しつつ、より広めたいなと思っています。スコアを活用した一般の方向けのワークショップもおこなっています。

スコア化すれば未病の重要性が伝えられる

どうしても鍼灸師は、治療の結果を主観に頼らざるを得ないところがあるじゃないですか。だからこそ「未病スコア」のような一つの指標を持つことは、すごく重要な気がします。
ツルタ
ツルタ
戸村先生
戸村先生
ありがとうございます。スコアは1つの手段なんです。
別にこのスコアを使えって言っているわけではなくて、鍼灸師が普段臨床でやっている自分の評価から「あなたは肝だから筋肉に良いタンパク質を取りましょう」とか、そんなんでもいいんですよ。大事なのは指標を持つことと、それを伝えることです。
あまり大きな声では言いにくいんですが、患者さんを治療するなかで効果が出ると「未病のために通うことにしました」と言ってくれる人が出てきますよね。理想的な信頼関係だと思うんですが、どこか治療家としてやりがいを感じにくいところがあって…。
タキザワ
タキザワ
戸村先生
戸村先生
当然だと思いますよ。未病は基準がないから、責任感のある治療家ほど、手ごたえが感じられなかったりしますよね。
だからこそ、臨床現場で最初の段階でこの未病スコアを取ったら、「本来だったらこの方はこういう道筋をたどる未来もあったけど、鍼灸でここまで保てているんだ」ってわかりますよね。それは、臨床家のモチベーションにもつながるのかなと。
タキザワ
タキザワ
戸村先生
戸村先生
ほんとにそう思います。僕も少ない経験ですけど臨床をやっている時に、患者さんに「先生のところ来てから風邪引かへんようになったわ」とか言われることがありました。「それやねん」っていう感じですよね。それをスコアで示せたら、患者さんが通うモチベーションにもなりますよね。

ICD-11で新たに「伝統医学」が加わった今だからこそ

お話を聞いていて改めて「未病」っていうワードにはすごい可能性があって、まだまだ開拓できると感じました。未病の評価はほとんど誰もやってこなかったことではないでしょうか。
ツルタ
ツルタ
戸村先生
戸村先生
ほとんどいないと思います。なんとなく「未病の評価は難しいだろう」という先入観があるのかもしれません。
「自己効力感」あふれる先生だからこその画期的な取り組みですよね。治療と未病で2本柱になるぐらい、未病への取り組みが大きくなった未来の鍼灸師の仕事を見てみたいなと思いました。
ツルタ
ツルタ
戸村先生
戸村先生
現実に鍼灸師は患者さんの未病にずっと向き合ってきたわけじゃないですか。ただ、それが可視化されていないから、他の医療職にも患者さんにも伝わってない。もったいないですよね。未病を評価することで鍼灸師の役割は大きく変わると思っています。
WHOが発行する「疾病及び関連保健問題の国際統計分類(ICD-11)」が29年ぶりに改訂されて、初めて「伝統医学」の項目が追加されました。これまでのように臨床家によって、証の基準がバラバラだと国際的にも遅れをとるかもしれません。
ゆうすけ
ゆうすけ
戸村先生
戸村先生
おっしゃるとおりです。「ICD-11」は医療機関における診療録の管理などにも用いられます。医療連携を進めるにあたっても、測定、集計、比較に耐えうる「証」がますます必要となります。「未病スコア」をツールの一つとして、みなさんに活用してほしいですね。
治療するだけが鍼灸師の役割ではないということですね。基調講演では、さらに詳しく聴けるのが楽しみです。
ツルタ
ツルタ
戸村先生
戸村先生
未病の「見える化」を業界全体で行うことで、養生の実践を啓蒙していく。国の医療費が逼迫するなかで、まさに今、そんな時期にさしかかっているのではないでしょうか。

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【記事担当】
取材 = ゆうすけタキザワツルタ
撮影 = ツルタ
文   = なるみさわ
編集  くちやまだ

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